新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(新モノ補助)の事業計画では、会社の現状、目指す姿、経営戦略、新規事業の内容だけでなく、収益計画、資金調達、補助対象経費、スケジュールまで整合させる必要があります。
では、実際にはどのように作ればよいのでしょうか。
本ページでは、架空企業の新規事業を使って、
経営革新計画などで整理していた新規事業
↓
新モノ補助向けに追記・修正
↓
4つの応募申請画面インポート用フォーマットへ反映
する流れを紹介します。(ベースは「経営革新計画記載例(東京都版)」を参考にしております。)
制度の入力項目そのものについては、別ページ「新モノ補助の事業計画は何を書く?」で解説しています。
ここでは、「経営革新計画」で策定した新規事業を「新もの補助」の申請書へどう変換したかに絞って説明することで、新規事業の骨子を自社で把握することの重要性を説明します。
[新モノ補助の事業計画は何を書く?]
[経営革新計画と新モノ補助の違い・転用]
[新規事業の骨子とは?]
経営革新計画と新モノ補助では、評価される点が異なります。同じ新規事業を扱っても、書いた内容をすべてそのまま写せばよいわけではありません。顧客、課題、提供価値、売上根拠は、共通で使えます。一方、新モノ補助では、補助対象経費、事業期間、投資効果を、制度の要件に合わせて追加し、組み替える必要があります。共通の骨子と制度固有の部分を分けて持っておくと、転用しやすくなります。
今回使用する事例
今回の記載例では、次の企業を想定しています。(先に記載例を確認したい場合はこちらからダウンロードしてください)
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 会社 | 株式会社Aテック(架空) |
| 所在地 | 神奈川県横浜市 |
| 業種 | 機械器具卸売・保守 |
| 資本金 | 3,000万円 |
| 従業員 | 20名 |
| 年商 | 約4億円 |
| 主な顧客 | 地域の中小製造業 約150社 |
| 既存事業 | 工作機械・部品販売、点検・修理 |
| 新規事業 | NC工作機械向け設備延命診断・予防保全サービス |
Aテックは、工作機械や補修部品の販売、点検・修理を行っています。
既存顧客との取引を通じて、
「メーカーの保守終了後も設備をできるだけ長く使いたい」
というニーズが増えていることを把握していました。
そこで、従来の「故障してから修理する」という対応だけでなく、「設備状態を定期的に把握し、故障前に保全する」サービスへの展開を計画しました。
具体的には、振動・騒音・電流・電力等の計測結果と過去の保守履歴を組み合わせ、独自の「設備延命診断スコア」を作成します。
その結果をもとに、予防保全、部品交換、継続使用、設備更新などの判断を支援する月額サービスを提供する計画です。

転用するのは「申請書」ではなく新規事業の骨子
今回の事例は、経営革新計画を作る段階ですでに、
顧客の課題
メーカー保守終了後も設備を長く使用したい
↓
自社の強み
既存顧客約150社との関係、工作機械の保守経験、設備履歴、補修部品の調達力
↓
新規事業
設備状態を定期的に診断する予防保全サービス
↓
顧客価値
故障後に対応するのではなく、設備停止や更新時期を事前に判断できる
という基本的な事業構造を整理していました。この部分は、新モノ補助になっても大きくは変わりません。
一方で、新モノ補助へ申請するためには、申請枠、革新性、設備投資、補助対象経費、付加価値、賃上げ、資金調達、補助事業期間などを追加していきます。
整理すると次のようになります。
| すでに整理していた内容 | 新モノ補助での対応 |
|---|---|
| 経営課題 | 基本的に活用 |
| 顧客課題 | 基本的に活用 |
| 自社の強み | 基本的に活用 |
| 新規事業の内容 | 基本的に活用 |
| 顧客価値 | 具体化 |
| 市場・競合 | 最新情報・根拠を追加 |
| 売上計画 | 現在の単価・数量等で再計算 |
| 申請枠 | 新たに判断 |
| 革新性等 | 申請枠に合わせて追加 |
| 設備投資 | 必要性まで説明 |
| 補助対象経費 | 制度に合わせて整理 |
| 付加価値・賃上げ | 新モノの定義で作成 |
| 資金調達 | 新たに作成 |
| スケジュール | 補助事業とその後に分けて作成 |
つまり、経営革新計画の文章をコピーするのではなく、そこで整理した新規事業を材料として使うイメージです。
今回の記載例は「革新的新製品・サービス枠」で作成
今回公開する記載例Excelは、すべて革新的新製品・サービス枠を想定して作成しています。
当社では、
複数の設備計測データ+過去の保守・修理履歴
↓
設備延命診断スコア
↓
継続使用・部品交換・更新判断
↓
定期診断・予防保全サービス
という仕組みを新たに構築する設定としました。
そのため今回の記載例では、新しい顧客価値を持つサービスをどのように開発するかを中心に組み立てています。
新事業進出枠なら説明する重点が変わる
同じ事業でも、新事業進出枠として申請する場合には、説明する重点が変わります。
革新的新製品・サービス枠では、今回のように新サービスの革新性や顧客価値を中心に整理します。
一方、新事業進出枠では、それに加えて、既存事業では対象としていなかったニーズ・属性を持つ顧客層への進出であるかなどを整理する必要があります。
例えば今回の事例でも、
従来:機械・部品を購入したい、故障した機械を修理してほしい顧客
に対して、
新規事業:設備停止を予防し、計画的に設備を延命したい顧客
という違いをどこまで説明できるかが論点になります。
ここは本ページで詳しく繰り返さず、申請枠の違いについては別ページで整理しています。
1.事業内容を「革新的なサービス」として具体化する
経営革新計画の段階では、
「故障後の修理中心から、定期診断・予防保全型サービスへ展開する」という新規事業の方向性を整理していました。
新モノ補助では、これをさらに具体化します。
今回の記載例では、
振動・騒音・電流・電力等を測定する
↓
過去の保守・修理履歴と組み合わせる
↓
設備延命診断スコアを作る
↓
継続使用・部品交換・更新の判断材料を提供する
という形にしました。単に「点検サービスを始める」とするより、
「従来のサービスと何が違い、顧客にどのような新しい価値を提供するのか」が分かりやすくなります。
ただし、実際の申請では「同業他社に相当程度普及していない」ことなどを文章だけで主張するのではなく、競合サービスや市場情報を確認しておく必要があります。

2.設備は新規事業との関係から決める
今回の記載例では、次の設備・システム等を想定しました。
| 内容 | 税抜想定額 |
|---|---|
| 設備診断機器一式 | 800万円 |
| 診断データ解析・履歴管理システム | 450万円 |
| 携帯型計測キット・周辺機器 | 200万円 |
| クラウドサービス利用費 | 60万円 |
| 補助対象予定経費合計 | 1,510万円 |
補助率1/2を前提とし、補助金交付申請額は755万円としています。
ここで大切なのは、設備名や金額だけではありません。
例えば設備診断機器であれば、
設備状態を経験だけで判断している
↓
複数の計測値を同一条件で継続的に取得したい
↓
設備延命診断スコアを作る
↓
そのために診断機器が必要
という関係を作ります。
つまり、「新規事業 → 必要な機能 → 必要な設備」の順です。
対象経費そのものの考え方については別ページで解説しています。[新モノ補助の対象経費・対象外経費]
3.売上計画は申請時点の前提で組み直す
経営革新計画などで一度売上計画を作っていても、その数字をそのまま転記するとは限りません。
今回の例では、申請時点のサービス内容をもとに、
「1台当たり月額12万円」と設定しました。
| 契約台数 | 新規事業売上 | |
|---|---|---|
| 1年目 | 10台 | 1,440万円 |
| 2年目 | 18台 | 2,592万円 |
| 3年目 | 30台 | 4,320万円 |
例えば1年目は、
12万円 × 12か月 × 10台 = 1,440万円
です。
経営革新計画で作った数値と異なる場合でも、単純に「数字を変えた」のではなく、
「価格、数量、販売開始時期などの前提を見直した結果として説明できること」が重要です。
逆に、同じ事業について制度ごとに理由なく数字が変わっていると、計画の信頼性を損ねます。
4.事業計画の文章を財務情報へつなげる
今回の例では、既存事業約4億円を維持しながら、新規事業売上を積み上げる設定としました。
新規事業売上は、
1,440万円 → 2,592万円 → 4,320万円
です。
これを財務情報・収益計画へ反映し、付加価値額は、
9,500万円 → 1億508万円 → 1億1,314万円 → 1億2,524万円
としています。
一人当たり給与支給総額も、
350万円 → 364万円 → 約379万円 → 約394万円
と段階的に引き上げる計画です。ここで重要なのは、
申請要件を満たす数字を最後に当てはめること
ではありません。
新規事業の販売数量が増える
↓
売上・利益が増える
↓
付加価値が増える
↓
賃上げにつなげる
という関係にします。
そのため、事業計画Excelと財務情報・収益計画Excelは別々に作るのではなく、同じ事業計画を文章と数字の両面から表したものと考える方が分かりやすいでしょう。
5.補助金受領までの資金も具体化する
今回の記載例では、税込の事業費を1,661万円としています。
補助金交付申請額は755万円ですが、補助金が最初から手元にあるわけではありません。
そこで、補助金を受領するまでの資金として、
自己資金861万円+金融機関からのつなぎ融資800万円=1,661万円
を確保する設定としています。
一方、最終的な資金構成では、自己資金906万円+補助金755万円という形になります。
新規事業そのものを考えている段階では、「設備投資は約1,500万円必要」程度までしか検討していないこともあります。
新モノ補助の申請では、そこからさらに、
いつ支払うのか → 補助金受領前にどう資金を用意するのか
まで具体化していきます。
6.補助事業期間と、その後の事業化を分ける
今回の記載例では、補助事業期間中に、
設備仕様の確定 → 設備導入 → 測定条件の標準化 → 診断スコアの試作 → 社内検証→ 顧客試行→ 改善・販売準備
まで進める設定としました。その後の事業計画期間で、
1年目 10台・1,440万円
↓
2年目 18台・2,592万円
↓
3年目 30台・4,320万円
へ拡大していきます。
新規事業は、設備を導入した時点で完成するわけではありません。
補助事業期間では事業化できる状態を作り、その後の事業計画期間で販売・改善・拡大していく構造です。

最終的には4つのExcelが一つの計画になる
今回の記載例では、同じ新規事業を次の4つの公式フォーマットへ分けています。
| フォーマット | 今回の記載例で表す内容 |
|---|---|
| 事業計画 | なぜこの事業を行うのか、顧客価値、革新性、競合、販売方法等 |
| 財務情報・収益計画 | 売上、利益、付加価値、給与等 |
| 資金調達表・補助対象予定経費 | 設備等の経費、補助金、自己資金、資金調達 |
| スケジュール | 補助事業期間と、その後の事業化 |
新モノ補助 記載例Excel
本ファイルは、架空企業をもとに作成した参考用の記載例です。
申請期間が短いため、詳細チェックが完了しておりません。参考資料としてお使いください。
これら4つは別々の資料ですが、内容はつながっています。
例えば、
「1年目に10台販売する」のであれば、そのための設備が補助事業期間中に導入されているか。
サービス開発や顧客試行が販売開始までに終わっているか。
10台を販売する体制があるか。
1,440万円の売上が財務計画へ反映されているか。
必要な資金を確保できているか。
というように、横断して確認します。
※本記載例は、制度の入力方法や各フォーマットのつながりを理解するために作成した架空事例です。実際の申請では、自社の事業内容、決算数値、賃金、見積書、市場・競合調査等に基づいて作成してください。
※公募回によって様式や要件が変更される可能性があるため、実申請では必ず申請する公募回の最新資料・フォーマットを確認してください。
記載例を見るときは「文章」より「考え方」を見る
今回の記載例で見ていただきたいのは、文章表現そのものではありません。
例えば、経営革新計画で、
「既存顧客の設備保守ニーズに対応する新サービスを開始する」
と設定していたものを、新モノ補助では、
どのような顧客価値があるか
どこに革新性があるか
どの設備がなぜ必要か
何台売ればどの程度の売上になるか
会社全体の付加価値や賃金へどうつながるか
いつ、誰が、何を実施するか
まで分解しています。つまり、記載例をそのまま真似するよりも、
一つの新規事業を、制度が求める情報へどのように変換しているか
を見ることで、理解が深まります。
まとめ|事業の骨子があれば、制度ごとに組み替えられる
今回のAテック事例では、もともと整理していた、
顧客課題 → 自社の強み → 新規事業 → 顧客価値 → 事業化 → 収益
という流れを土台にしています。
新モノ補助では、そこへ、
申請枠 → 革新性 → 設備投資 → 補助対象経費 → 付加価値・賃上げ → 資金調達 → スケジュール
を追加しました。
したがって、
経営革新計画の申請書を新モノ補助へ転用する
というより、
新規事業の骨子を共通の土台として、制度ごとに必要な内容を追加・調整する
と考える方が実態に近いでしょう。
一度、新規事業そのものをしっかり整理しておけば、経営革新計画、新モノ補助、他の補助金、融資などへ展開するときにも、すべてをゼロから考え直す必要はありません。
