実際の事業化事例を事後レビュー
新規事業の相談を受けていると、計画書や数字を見る前に、
「これは少し厳しいかもしれない」
「この商品は売りにくそうだ」
「進め方が速すぎるのではないか」
と感じることがあります。
もちろん、その感覚だけで事業を判断することはできません。それでも、多くの案件を見ていると、何となく引っかかるところがあります。では、そのとき感じた違和感は、実際にはどの程度当たっていたのでしょうか。
今回、過去に事業化支援の現場で見聞きした案件について、その後の企業や商品を改めて追ってみました。すると、
「当時心配していたことが、そのまま事業化の壁になったケース」もあれば、
「当時は難しいと思っていたのに、予想以上に事業が続いたケース」もありました。
私が「このニーズはありそうだ」と見立てても、実際には外れることがあります。反対に、厳しく見ていた案件が、のちに伸びたこともあります。大切なのは、結果が出たあとに、その理由を確かめることです。需要の読み違いだったのか、価格だったのか、競合だったのか、社内体制だったのか。当たった理由も外れた理由も残しておくと、次の見立ての精度が上がります。このページは、その記録です。このため、このページでは、
当時どう見えたか → その後どうなったか → 何を見直すべきだったか
という順番で、実際の事例から得られたことを整理します。
このページの事例について
ここで扱う内容は、特定企業の事例をそのまま公開するものではありません。
直接関わった案件、経過を聞いていた案件、その後を公開情報で確認できた案件など、複数の実例を材料にしています。
企業や商品が特定されないよう、業種、商品、時期、規模、技術、顧客属性、経緯などを一般化し、複数案件を組み合わせて再構成しています。
したがって、以下の一つのケースが一つの企業に対応するわけではありません。
→ [実際の支援現場をもとに再構成した9つの事業化事例]

当時の違和感が、そのまま問題になったケース
まず、比較的分かりやすかったのは、当時心配していたことと、その後起きたことが近かったケースです。
ただし、後から振り返ると、「何となく厳しそうだった」では十分ではありません。
何に違和感を持っていたのかまで分解すると、別の案件にも使えるようになります。
1 「自分が欲しい」と「市場が欲しい」が混ざっていた
ある商品の出発点は、経営者自身が仕事の中で感じていた不便でした。
本人にとっては、本当に欲しい商品です。困っている理由も具体的でした。そのため商品化への熱意もあります。
一方で、当時気になったのは、「同じことに困っている第三者の話を、それほど聞いていない」ことでした。
商品そのものは完成し、販売にも進みました。
しかし、その後を見ると、会社の主力商品になるほど広がった形跡は確認できませんでした。
自分自身の困りごとから始めること自体は良い出発点だったと思います。
問題は、
「自分が困っている」という事実を、そのまま市場ニーズとみなしてしまったこと
にあった可能性があります。
今なら、
「同じ問題を持つ人はどのくらいいるか」だけではなく、
今は何で代替しているのか。
その不便を解消するために、実際にお金を払うのか。
まで早い段階で確認します。
2 ニーズはあった。しかし、価格までは確認できていなかった
別の案件では、顧客が困っていること自体にはかなり納得感がありました。
利用者の声も聞いています。試作品も直しています。技術的にも完成度の高い商品になりました。
ところが、商品を良くしようと機能を加えるほど価格が上がっていきました。
最終的には、一般の利用者が簡単に購入できる金額ではなくなります。
当時も、「これは高すぎるのではないか」という話は出ていました。その後、大きな販売量にはつながらなかったという話も聞いています。
このケースを改めて見ると、
ニーズ確認と価格確認を一つのものとして考えてはいけない
ことがよく分かります。
「欲しいですか」と聞けば、欲しいと言う人はいます。しかし、「この価格でも買いますか」は全く別の質問です。
さらに、「商品を使う人・助かる人・代金を支払う人」が違う場合、誰の支払意思を見るのかも変わります。
今なら、機能を増やす前に、最低限どこまであれば価値が成立するのかを先に確認します。
3 商品を直していたら、買う理由までなくなった
ある商品では、最初のアイデアには明確な面白さがありました。ところが、検討を進めると安全面などの問題が見つかります。そのため仕様を修正しました。別の問題が出て、また直します。問題は少しずつ解消されていきました。
一方で、最初にあった商品の魅力・特徴も少しずつ薄れていきました。最後には、「これなら既存商品でもよいのではないか」という状態に近づいています。
当時の違和感は、商品の問題点そのものではなく、問題を解決するほど、その商品を選ぶ理由まで弱くなっていることでした。これは、後から見ても重要だったと思います。
新商品のコンセプトを修正するときには、
「問題がなくなったか」けでなく、「修正後にも、買う理由が残っているか」を毎回確認する必要があります。
4 商品以前に、会社が新規事業を進められる状態ではなかった
市場や商品について考える以前に、
「これは進めるのが難しいのではないか」と感じる案件もありました。
例えば、
経営側で考えが揃っていない。誰が最終的に決めるのか分からない。担当者がなかなか決断できない。本業にも課題があり、新規事業へ十分な力を割けない。
などといった状態です。
後から見ると、新規事業が大きく展開した様子は確認できませんでした。
このケースでは、商品に需要があるかどうか以前に、会社として本当にこの事業を進める状態になっていたのかを見る必要がありました。
今なら、新商品について話す前に、
「なぜこの会社が新規事業をやるのか」
「誰が責任を持つのか」
「どこまで人と時間を使えるのか」
を確認します。

逆に、当時の見立てが外れたケースもあった
ここからの方が、むしろ今回の振り返りで重要でした。
支援する側が厳しく見ていたにもかかわらず、その後も事業が続いたケースがあります。
結果を後から知れば、「実は成功要因があった」と説明することは簡単です。ただ、当時それを十分に評価できていなかったという事実の方が重要です。
5 「小さすぎて難しい」と思ったが、小さいから続けられた
ある会社は、規模も小さく、新規事業へ使える経営資源も多くありませんでした。
当時は、
「この体制で事業として広げるのは難しいのではないか」
という見方をしていました。
ところが、その後も事業は残りました。大企業の新規事業のように大きく成長したわけではありません。それでも、何年も続いています。
改めて見ると、
大きな固定費を抱えていない。
経営者自身が動ける。
必要に応じて外部の支援を使う。
少しずつ顧客との接点を積み重ねる。
といった特徴がありました。
当時は、「どれだけ成長できるか」を見すぎていたのかもしれません。
小規模企業の場合、「小さくても維持できるか」も事業継続力になります。
会社が小さいことは弱みになる一方で、固定費が小さければ、すぐに大きな売上を作れなくても粘ることができます。このケースで、私自身の見方はかなり修正されました。
6 「進み方が速すぎる」と思ったが、速く変えられる会社だった
別の案件では、開発や事業展開の速度が非常に速く、「少し先走っているのではないか」と感じていました。
もっと市場を確認してから。もっと計画を固めてから。
と考えたくなる進み方です。
ところが、その後を見ると、単に速く作っていたわけではありませんでした。
新しいものを出す。
顧客の反応を見る。
反応が弱ければ別のものを試す。
反応の強い部分を残す。
という動きを速いペースで続けていました。
つまり、
「単に速く進める会社」ではなく、「速く学んで変えられる会社」
だったのです。
ここは当時の見立てが十分ではありませんでした。新規事業で、速く進められることは強みになることが多いです。
ただし、小さな試行を高速で繰り返し、誤りがあればすぐ修正できることが前提になると考えます。
7 「同じ顧客だから本業と相性が良い」とも限らない
これは少し違う種類の見落としです。
新規事業を考える際、既存顧客へ新商品を売れるのであれば、「本業との相乗効果がある」と考えやすくなります。
実際、販売先が同じであることは大きな利点です。ところが、あるケースを後から考えると、
既存事業と新商品が、同じ顧客の別々の需要を満たすのではなく、価値そのものが競合していた可能性がありました。
本業は、「ある行動をすること」を支える。
新商品は、「その行動をしなくても済むこと」を提供する。
例を挙げると、帳票印刷を本業とする会社が、電子帳票サービスを始める場合です。本業は「紙に印刷して運用すること」を支えますが、新事業は「紙に印刷しなくても済む仕組み」を提供します。顧客が同じでも、新事業が広がるほど既存事業の需要を減らす可能性があります。
顧客は同じです。しかし、価値提案は逆方向です。当時は「顧客が同じ」という点を少し強く見すぎていたのかもしれません。
今なら、「同じ顧客に売れるか」だけではなく、「本業と新事業が、顧客に同じ行動を促しているか」まで見ます。

「違和感」は結論ではなく、次に聞く質問に変える
今回の振り返りで一番重要だと思ったのは、違和感そのものを判断基準にしてはいけないということです。
「売れなさそう」「高すぎる」「市場が小さそう」「会社が小さすぎる」「進め方が速すぎる」
と感じることはあります。でも、その時点ではまだ仮説です。
その感覚を、「次に何を確認するか」へ変える必要があります。
例えば、
| 感じた違和感 | そこで止めずに確認すること |
|---|---|
| ニーズが弱そう | 誰がどのくらい困っているか。現在は何で代替しているか |
| 高すぎる | 必須機能はどこまでか。誰が支払うのか |
| 市場が小さそう | 固定費はいくらか。小さな市場でも成立する損益構造か |
| 本業から遠い | 顧客・技術・設備・販路のうち何を流用できるか |
| 会社が小さい | 必要売上はいくらか。外部資源を使えるか |
| 進め方が速すぎる | 間違ったときに止められるか。修正速度も速いか |
| 同じ顧客だから相性が良さそう | 本業と新事業の価値提案が補完関係か競合関係か |
この形にすると、「経験者の勘」で終わりません。違和感を、検証できる問いに変えられます。

支援する側が見誤りやすいのは「現在の姿」だけを見たとき
今回の事例を振り返ると、見立てが外れたケースには共通点があります。
当時の会社や商品を、止まった一枚の写真のように見ていたことです。
しかし、新規事業ではその後に変わります。
商品を変える。顧客を変える。売り方を変える。本業へ戻る。別の商品を作る。小さいまま続ける。
支援時点で見えているのは、その一部にすぎません。
そのため、「今の商品が良いか」だけでは足りません。
この会社は、結果を見て変えられるかまで見なければなりません。ここは、今回の事後レビューで強く感じたところです。
「良い商品か」より、「違ったときに直せるか」
当時の見立てが当たったケースと外れたケースを比べると、もう一つ違いがありました。
最初の商品に問題があったとしても、
顧客の反応を聞く。商品を変える。市場を変える。販売方法を変える。一度止める。
ということができる会社は、その後の選択肢が残ります。
逆に、
「ここまで作ったから」「社長が決めたから」「この設備を買ったから」
という理由で、最初の案から動けなくなると難しくなります。
だから新規事業を見るときは、「今の計画が正しいか」だけではなく、「違っていたと分かったときに修正できる設計になっているか」も重要です。
これは「慎重に進めればよい」という意味ではありません。速く進めても構いません。ただし、速く戻れることも必要です。

事後レビューをすると、支援側の癖も見えてくる
企業だけでなく、支援する側にも判断の癖があります。今回の振り返りでは、少なくとも次のような偏りがあり得ると感じました。
小さな会社を厳しく見すぎる。
大きく成長する姿を想定すると不利に見えますが、小さな固定費で長く続けられる場合があります。
速く動く会社を危険視しすぎる。
速く動けることは強みですが、見込みと異なった場合に素早く検証して変えられることが前提となります。
技術的に完成度の高い商品を高く評価しすぎる。
商品としてよくできていても、価格が合わなければ市場は広がりません。
同じ顧客なら本業と相性がよいと考えすぎる。
顧客が同じでも、価値提案が本業と競合する場合があります。
こうした癖は、成功した案件だけを見ているとなかなか分かりません。
予想が外れた案件を残しておくことで、初めて自分の判断の癖が見えてきます。
だから、判断理由も残しておく
新規事業では、結果だけを記録してもあまり役に立ちません。
例えば、「商品Aは中止した」という結果だけでは、次の案件に生かしにくいからです。
それより、
その時点で何を事実として確認していたか。
何をまだ仮説と考えていたか。
なぜ進める・見直すという判断をしたか。
何が起きたら判断を変えるつもりだったか。
を残しておく。そして半年後、一年後に見直します。
そうすると、
「ニーズがないと思ったが、実際には価格が問題だった」
「規模が小さいと思ったが、固定費も小さかった」
「進めるのが拙速に見えたが、見直しも速かったため軌道修正が上手くはまった」
というように、自分の見立ても修正できます。
新規事業の経験を増やすというのは、成功案件を増やすだけではありません。
自分の判断を後から検証できる材料を増やすことでもあると思います。

まとめ|当たった見立てより、外れた見立ての方が役に立つこともある
今回、過去の事業化案件を改めて振り返ってみると、当時感じていた違和感がそのまま問題になったケースは確かにありました。
ニーズ確認が弱かった。価格が高くなりすぎた。商品を修正した結果、価値が薄れた。会社側の体制が整っていなかった。
一方で、見立てが外れたケースもあります。
小さすぎると思った会社が、小さいからこそ事業を続けられた。
進み方が速すぎると思った企業が、速く試して速く変える力を持っていた。
既存顧客と近いから相性がよいと思った事業が、実は本業とは逆の価値を提供していた。
こうして見ると、
経験が増えるほど、何でも正しく判断できるようになるわけではありません。
むしろ、
「自分はどこで見誤りやすいのか」を知ることの方が大切なのかもしれません。新規事業で感じる違和感は無視しない。ただし、その違和感をそのまま結論にもしない。
何が気になるのかを言葉にし、次に確かめる質問へ変える。
そして、その判断が後からどうなったのかを振り返る。この繰り返しによって、新規事業を見る目も少しずつ修正されていきます。
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