新規事業の事業化事例
事業化の現場から見る9つのケース
新規事業の事業化について調べると、「顧客ニーズを確認する」「小さく試す」「採算性を見る」といった考え方がよく出てきます。
もちろん、どれも大切です。ただ、実際の企業の新規事業を見ると、そこまできれいには進みません。
良いと思っていた商品を途中でやめた会社もあります。
自分自身の困りごとから商品を作ったものの、市場の広がりに課題が残ったケースもあります。
最初の商品はうまくいかなかったものの、その後、別の商品開発につながった会社もあります。
逆に、周りが少し心配になるほど速く進めた企業が、その実行速度を強みに事業を成長させたケースもありました。(もちろん、逆のケースもあります。)
このページでは、現場で見聞きした複数の事例をもとに、新規事業がその後どうなったのかを紹介します。
成功事例だけではありません。
うまくいかなかったもの、途中で方向を変えたもの、小さく残ったもの、商品以外の成果が会社に残ったものも含めています。
※このページは、特定企業の事例紹介ではありません。企業・商品が特定されないよう、複数の実例から共通する論点を抽出し、業種、商品、企業規模、時期、開発経緯などを変更・組み合わせて再構成しています。

【事例は、「成功・失敗」だけで分けない】
新規事業の結果は、成功か失敗かの二択ではありません。たとえば、販売はできたものの、期待ほど伸びなかった場合があります。想定とは別の顧客に評価される場合もあります。事業化は止まっても、技術や顧客理解が次に残る場合もあります。このページでは、結果よりも、どの仮説が当たり、どこが外れたかに注目します。なお、このページの事例は、複数の案件を組み合わせて再構成したものです。
事例1 既存設備を使い、一人から始めた新商品
ある製造業では、本業で使っている設備や加工技術を、そのまま新しい商品の製造にも利用できました。
新規事業だからといって、新しい工場を作る必要はありません。
高額な設備を追加する必要もほとんどありませんでした。
最初は一人を中心に進めることができ、固定費も大きく増えません。
顧客も比較的イメージしやすく、その商品が関係する市場自体にも当時は追い風がありました。
こうした条件が揃っていたため、大きな計画を作り込むより、まず商品を作って市場へ出すことができました。
もちろん、最初から大量に売れることが分かっていたわけではありません。
それでも、思ったほど売れなかった場合の損失は限定できます。
実際の新規事業では、「成功する確信があるから始める」というケースばかりではありません。
むしろ、外れたとしても会社への影響を抑えながら試せるから始めるという考え方があります。
既存の設備、技術、人材をそのまま利用できることは、新規事業では大きな強みになります。
この事例から見えること
このケースでは、「売れそうか」だけではなく、小さく始められる事業だったことが重要でした。
新規事業では、期待できる売上だけでなく、失敗した場合にどの程度の損失で戻れるのかも見ておく必要があります。

事例2 自分自身の困りごとから商品を作った
別の会社では、経営者自身が日常の作業で感じていた不便から、新しい商品を考えました。
「こんな商品があれば自分なら使いたい」というところから始まっています。
この始め方には強みがあります。
自分が実際に困っているため、どこが使いにくいのか、既存の商品では何が足りないのかを具体的に考えることができます。
試作品を作り、最終的には商品として販売するところまで進みました。
一方で、途中で気になる点もありました。
本人の問題意識は強いものの、同じ不便を感じている第三者への確認は、それほど多くなかったように見えたからです。
自分自身が欲しい商品でも、他の人が同じように欲しいとは限りません。
まして、実際にお金を払って購入するかどうかは別の話です。
自分の困りごとから始めること自体は、新規事業の有力な出発点です。
ただ、その次には、
「同じ人はどのくらいいるのか」
「今はどうやって問題を解決しているのか」
「商品を使ってもらうとどう評価されるのか」
を外へ聞きに行く必要があります。
この事例から見えること
自分事は、商品開発の強い起点になります。
一方で、「自分が欲しい」という実感と「市場がある」という確認は分けて考えた方がよさそうです。
事例3 最初の商品をやめ、少しずつ自社の強みに近づいた
ある製造業では、取引が特定顧客に大きく依存していました。
将来、その仕事が減る可能性が見えてきたことから、新規事業への取り組みを始めます。
最初に検討したのは、本業とはかなり離れた分野の商品でした。
しかし、開発を進める中で、顧客ニーズや安全性などに問題が見つかります。
そこで、その商品を無理に完成させるのではなく、一度やめました。
次に目を向けたのは、自分たち自身が働いている製造現場です。
現場で作業する人が感じている不便(=自分たちの困りごと)を考え、その解決につながる商品を検討しました。
さらに試行錯誤を続けるうちに、自社が長年培ってきた加工技術そのものを生かせる商品へと近づいていきました。
興味深いのは、新規事業だけで経営上の問題を解決しようとしなかったことです。
本業では本業で、特定顧客への依存を減らすため、新しい取引先の開拓を進めています。
一方、新規事業は時間をかけて試行錯誤を続けています。
最初の商品は残りませんでした。
しかし、
「顧客を考える」
「試作品を作る」
「商品として成立する条件を考える」
という経験は残りました。
この事例から見えること
途中で商品をやめても、新規事業の経験までゼロに戻るわけではありません。
むしろ、
外にある市場を探すところから始め、自分たちがよく分かる現場、自社の得意技術へと近づいていく
ことがあります。
また、新規事業だけに賭けるのではなく、本業の顧客分散を同時に進めるという現実的な対応もあります。

事例4 安全対策を重ねたら、商品の面白さが消えた
ある会社では、少し変わった使い方をする新商品を検討していました。アイデアとしては特徴があります。
ところが、商品化について具体的に検討すると、安全面の問題が出てきました。
そこで、安全に使えるよう仕様を変更します。さらに別の問題が見つかり、もう一度変更します。
こうして問題への対応を重ねていった結果、商品としては安全になりました。
ただし、最初にあった「この商品ならでは」の面白さも薄れていきました。
最後には、既に市場にある商品とあまり変わらないものになってしまいます。
新規事業では、問題が出たら修正するのが普通です。
しかし、どこまで修正しても事業を続けるべきかは別問題です。
安全性、法規制、製造条件などをクリアした結果、顧客がその商品を選ぶ理由までなくなってしまうことがあります。
この事例から見えること
修正した後には、
「問題は解決したか」だけでなく、「商品価値はまだ残っているか」を確認する必要があります。
ここまで開発したからという理由だけで商品化するのではなく、一度止めた方がよいこともあります。
事例5 利用者の声を聞いて作り込んだ結果、価格が高くなった
別の会社では、利用者が抱えている困りごとが比較的はっきりしていました。
試作品を作り、展示会などで利用者の話を聞き、仕様を修正しています。
商品開発の進め方としては、かなり丁寧でした。
技術力もあり、センサー、通信、通知など、便利な機能を次々と加えることができます。
最終的には完成度の高い商品になりました。一方で、機能を盛り込むほど価格も上がりました。
結果として、一般の個人が気軽に購入できる金額ではなくなります。
当時、その商品については、価格が高いことが販売上の大きな壁になっていたという話も聞いていました。
これは、ニーズを確認すれば必ず売れるわけではないことを示しています。
顧客は確かに困っている。
商品もその問題を解決できる。
それでも、「その問題のために、いくら払うのか」という別の確認が必要です。
さらに、使う人、便利になる人、お金を払う人が違うこともあります。
この事例から見えること
技術的にできることを全部入れる必要はありません。
顧客が本当に必要としている機能と、購入できる価格のバランスを見ることも事業化の一部です。

事例6 差別化するために顧客を絞ったら、市場まで小さくなった
ある会社では、従来とは違う顧客層へ向けた新商品を考えていました。
しかし、その市場には既に競合が多く、そのままでは違いを出すことが難しい状態でした。
そこで、「もっと対象顧客を絞れば、特徴を出せるのではないか」と考えます。
特定の趣味や利用場面に対象を絞ることで、確かに商品の特徴は分かりやすくなりました。
ただ、その分だけ買ってくれる可能性のある人も少なくなります。
商品として違いはある。
でも、その顧客数で事業として必要な売上に届くのか。
そこが問題になります。
この事例から見えること
新規事業では「ターゲットを絞る」ことがよく勧められます。
ただ、
誰に売るかを明確にすることと、市場自体を狭くしすぎることは別です。
差別化だけでなく、絞り込んだ後の市場規模も見る必要があります。
事例7 商品より先に、会社の中に問題があった
新規事業では、商品や市場以前に気になることのある会社もあります。
ある企業では、経営側でも新規事業に対する考えが揃っていませんでした。
それぞれが別の商品を考えているような状態で、内部の方向が揃っていないまま新規事業を進めようとしていました。
当時は、
新規事業の商品を考えるより、まず会社の方向を揃えた方がよいのではないか
という印象がありました。
別の企業では、会社としては後継者に新規事業を経験させたい意向がありました。
後継者を社内外へPRする意味もあったと思います。
ところが、担当する本人がなかなか決断できず、商品コンセプトも固まりません。
市場や技術が悪いわけではありません。
新規事業を進める社内の意思決定に問題がありました。
この事例から見えること
新規事業を始める前に、
「なぜこの会社が新規事業をするのか」
「誰が責任者なのか」
「最後に誰が決めるのか」
を確認した方がよい場合があります。
新規事業を進められる会社の状態になっているかも、事業化の条件の一つです。
事例8 速すぎるスピードと柔軟な考え方
ある会社では、新しいコンテンツを非常に速いペースで作っていました。
次々に試作し、商品を増やし、事業展開もかなり速い。
当時は、
「少し先に進みすぎではないか」
「投資が速すぎないか」
という心配もありました。ところが、その後を見ると、最初の商品に固執していません。
この事例の本質は、実は速さではなく、
顧客が面白いと感じた部分を拾いながら関連商品を増やし、やがて商品販売だけではなく、イベントや体験型サービスへと事業を広げていきました。
当初とは違う事業の形になり、大きく売上を伸ばしています。
この事例から見えること
慎重に進めることは大切です。
ただし、すべての会社を同じ速度にする必要はありません。
また、商品コンセプトと実現手段に対するアプローチも重要です。
試作・検証・修正を速く回せる会社では、その速度自体が競争力になることがあります。
商品コンセプト実現に向けて、特定の手段に拘らない方が良いケースがあります。
「速いか遅いか」ではなく、顧客の反応を見ながら変えられているかを見る方が重要です。
事例9 商品は大きく伸びなくても、新商品を作れる会社になった
最後は、商品単体の売上だけでは評価しにくい事例です。
ある会社では、受託型の仕事が中心で、自分たちで商品を企画して販売する経験がほとんどありませんでした。
そこで初めて、自社製品の開発に取り組みます。
顧客の困りごとを探す。
試作品を作る。
実際の利用者に見せる。
意見を聞いて仕様を変える。
販売方法を考える。
一連の流れを経験しました。
最初に開発した商品が、会社の大きな売上の柱になったとは限りません。
しかし、その後、社員からも新しい商品アイデアが出るようになり、自社製品開発を続ける会社になりました。
別のケースでは、新商品開発を社員や後継者が新製品開発を経験することで、人材育成として大きな成果を得た事例もあります。
この事例から見えること
事業なので、売上や利益は当然重要です。
だから、「経験になったから成功」と簡単に片付けるべきではありません。
一方で、「最初の商品そのものの成果」と、「その開発を通じて会社に残った能力」は分けて見た方がよいでしょう。
最初の商品が大きく伸びなくても、そこで身につけた顧客探索、試作、検証、商品企画の力が、次の事業につながることがあります。

9つの事例から見えてきたこと
こうして事例を並べると、新規事業には共通する分かれ目があります。
こうして見ると、事業化では最初のアイデアの良し悪しだけを判断しているわけではありません。
実際に進めながら、その都度判断を変えていることが分かります。
新規事業では「予定どおり進んだか」より、「何が分かったか」を見る
新規事業では、最初に作った計画と実際がずれることは珍しくありません。
予定していた商品が変わる。
顧客が変わる。
価格が変わる。
販売方法が変わる。
場合によっては、商品そのものを止めます。
だから、事業化ロードマップも単なるスケジュールとして使うのではなく、「この段階で何を確認するのか」を決めておく方が役に立ちます。
確認できたら次へ進む。
違っていたら戻る。
問題が大きければ、一度止める。
実際の事例を見ると、この繰り返しで事業の形が変わっています。
まとめ|実際の事例は、成功か失敗かだけでは分けられない
今回の事例には、
商品としてある程度育ったものもあります。
小規模ながら長く残ったものもあります。
途中で商品をやめたものもあります。
別の商品へつながったものもあります。
商品売上以上に、社員や会社の開発力が残ったものもあります。
実際の新規事業は、「成功事例」「失敗事例」の二つにはきれいに分けられません。
重要なのは、
そのとき何が分かり、会社が次にどう判断したか
を見ることだと思います。
新規事業の事業化では、商品を完成させること自体が目的ではありません。
顧客に価値を届け、会社として続けられる事業にしていく。
その途中で商品や市場を見直すことも、いったん止めることも、別の方向へ進むこともあります。
今回紹介した事例は、その現実をかなりよく表していると思います。
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