新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(以下「新モノ補助」)では、新しい製品・サービスや設備投資の内容だけを書くわけではありません。
公式資料の「経営戦略に基づく補助事業計画の考え方」では、
会社の現状→ 自社の目指す姿→ 3~5年後のありたい姿→ 現状とのギャップ・経営課題
→ 経営戦略→補助事業計画
という流れで事業計画を組み立てる考え方が示されています。
つまり、
新しい設備を導入したい
↓
その設備を使って何をするか考える
という順番ではなく、
会社としてどこを目指すのか
↓
そのために何が課題なのか
↓
どのような新規事業に取り組むのか
↓
その実現にどのような設備・資金が必要なのか
という順番で整理することが重要です。
【事業計画は、設備から考えない】
「この設備を導入したい」から計画を始めると、顧客や新規性をあとから付け足す形になりがちです。そこで先に、誰のどんな課題を何で解決するのか、どの市場でどのように売上をつくるのかを整理します。設備は、その実行に必要なものとして位置づけます。経営革新計画の骨子を先に作っておくと、新モノ補助の申請項目にも展開しやすくなります。なお、この考え方は、経営革新計画の実務知見を転用したものです。
本ページでは、第1回公募で公開された応募申請ガイド、経営戦略に基づく補助事業計画の考え方、応募申請画面インポート用フォーマット等をもとに、新モノ補助の事業計画で何を整理する必要があるのかを解説します。
新モノ補助の事業計画は「設備」から考えない
新モノ補助は設備投資を伴う補助金ですが、設備投資そのものが事業計画の出発点ではありません。
まず「会社概要」で過去の取組と現状を振り返り、「自社の目指す姿」を明確にしたうえで、3~5年後のありたい姿と現状との差から経営課題を抽出します。
その課題に対して、事業全体の方向性や経営資源の活用方針を「経営戦略」として整理し、その具体策として「補助事業計画」を作ります。
この関係を簡単にすると、
現状を把握する
↓
目指す姿を決める
↓
現状とのギャップを確認する
↓
経営課題を整理する
↓
経営戦略を決める
↓
新規事業を位置付ける
↓
必要な設備・人材・資金を考える
という流れになります。
したがって、「補助金が出る設備は何か」から検討を始めるより、「自社はなぜこの新規事業に取り組む必要があるのか」を先に整理した方が、事業計画全体につながりが生まれます。

申請では4種類のインポート用フォーマットを使う
新モノ補助では、事業計画に関する情報を一つの申請書だけにまとめるわけではありません。
電子申請では、次の4種類の「応募申請画面インポート用フォーマット」の使用が必須となっています。入力したファイルを電子申請システムへアップロードし、その内容を申請画面へ反映する仕組みです。
| フォーマット | 主に記載する内容 |
|---|---|
| 事業計画 | 会社の現状、目指す姿、経営戦略、新規事業の内容 |
| 財務情報・収益計画 | 売上・利益、付加価値、賃上げ等の数値計画 |
| 資金調達表・補助対象予定経費 | 必要資金、資金調達、補助対象経費 |
| スケジュール | 補助事業実施期間と、その後の事業計画期間 |
つまり、文章だけが事業計画ではありません。
事業内容、数字、必要資金、設備投資、実施時期が相互に整合して、初めて一つの事業計画になります。
例えば、
「3年後に大きな売上を見込む」のであれば、
「誰に販売するのか」
「どのくらい販売するのか」
「そのためにいつ設備を導入するのか」
「販売体制をいつ整えるのか」
といった内容もつながっている必要があります。
事業計画は4つの大きな要素で構成される
事業計画のインポート用フォーマットは、大きく、
1.会社概要
2.自社の目指す姿
3.経営戦略
4.補助事業計画
の4つで構成されています。
ここから、それぞれ何を記載するのかを見ていきます。
1.会社概要|まず既存事業と現在地を整理する
最初に整理するのは、今回始める新規事業ではなく、現在の会社についてです。
これまでどのような事業を行い、どのような顧客へ、どのような製品・サービスを提供してきたのかを確認します。
ここが曖昧だと、
何が「新しい」のか
どの市場が「新しい」のか
どの強みを新規事業へ活用するのか
も分からなくなります。
特に新事業進出枠では、既存事業と新規事業の違いが重要になります。
したがって会社概要は単なる会社紹介ではなく、
「これまでの自社」と「これから取り組む新規事業」を比較するための基準
として整理すると分かりやすくなります。
2.自社の目指す姿|3~5年後にどのような会社になりたいか
次に、自社の目指す姿を整理します。
公式資料では、現在の延長線だけで考えるのではなく、ビジョンから逆算して3~5年後のありたい姿を設定し、現状との差を「問題」として捉える流れが示されています。
例えば、
現在は既存製品への依存度が高い
↓
今後は保守・サービス事業も収益の柱にしたい
↓
しかし現在はサービス提供体制がない
のであれば、
「サービス事業を第二の収益源にする」という将来像と、現在との間にギャップがある
ことになります。
新規事業は、そのギャップを埋める手段の一つとして位置付けます。
つまり、
「補助金があるから新規事業をやる」
のではなく、
「目指す会社像を実現するために、この新規事業が必要である」
という関係を作ることが重要です。
3.経営戦略|なぜこの新規事業なのかをつなぐ
次に、その将来像を実現するための経営戦略を整理します。
公式資料では、外部環境・内部環境を踏まえて経営課題を抽出し、そこから事業全体の方向性と経営資源の活用方針を導く構造になっています。
ここでSWOT分析などを使うこともできます。
ただし、SWOTの4つの枠を埋めること自体が目的ではありません。
例えば、
自社には既存顧客との関係や技術ノウハウがある
↓
一方、既存事業だけでは市場縮小の影響を受けやすい
↓
顧客からは新たなサービスへの需要がある
↓
既存の強みを活かしてサービス事業へ展開する
というように、
環境分析 → 課題 → 戦略 → 新規事業
がつながっていることが重要です。
応募申請ガイドによると、過去の事業活動との一貫性、外部環境、自社の経営資源、現状の課題を踏まえ、補助事業が経営戦略上明確に位置付けられているかが審査されます。

4.補助事業計画|新規事業を具体化する
ここまで整理して、ようやく今回の補助事業を具体化します。
事業計画では、単に、「○○を開発します」だけを書くのではありません。
何を提供するのか、誰を顧客とするのか、どのようなニーズがあるのか、自社のどの強みを活かすのか、競合とどう違うのか、どのように販売するのか、どのような体制で実施するのか
までつなげていきます。
応募申請ガイドでも、継続的な売上・利益を確保できる市場規模・成長性、顧客ニーズ、競合との差別化、実施体制、スケジュール、財務状況などを示すことが求められています。
ここでは、
顧客に需要がある
↓
自社の強みを使えばその需要に応えられる
↓
競合と比べても選ばれる理由がある
↓
その製品・サービスを実現するために設備投資が必要
↓
販売によって売上・利益・付加価値を生み出す
という関係を整理しておくと、各入力項目がつながりやすくなります。
申請枠によって説明する「新しさ」は異なる
補助事業計画では、どの枠へ申請するかによって追加で説明する内容が異なります。
革新的新製品・サービス枠では、開発する新製品・新サービスの革新性を具体的に説明します。
新事業進出枠では、過去に製造・提供した実績がない製品等であることに加え、既存事業と新規事業で顧客層が異なることなどを整理します。
グローバル枠では、海外販路開拓が自社の事業戦略に基づいていることや、新たな国・地域の市場へ進出することを説明します。このため、同じ新規事業でも、申請枠によって強調すべき部分は変わります。
[3つの申請枠の比較・選び方]
[対象になる事業・ならない事業]
「うまく書く」より、根拠を用意する
事業計画を作る際に注意したいのは、文章だけで説得しようとしないことです。
応募申請ガイドでは、事業計画について定性的・定量的な情報を用い、具体的な理由や根拠を示すことが求められています。また、必要に応じて図表や写真等を利用できます。
実際の申請でも、会社の既存事業、経営戦略、SWOT分析、製品・サービス、ターゲット市場、自社の強み、市場規模、実施体制などについて、図表や客観的データ等を任意書類として添付できる仕組みになっています。
例えば、
「市場は成長している」
と書くだけでなく、市場統計を確認する。
「顧客ニーズがある」
と書くだけでなく、顧客ヒアリングや商談内容など、実際の検討材料を整理する。
「この設備が必要である」
と書くだけでなく、仕様や能力と新製品の製造工程との関係を整理する。
このように、主張 → 根拠をセットにしておくと、事業計画の具体性が上がります。

事業計画は「主張+根拠」で作る
数値計画は事業内容と別に作らない
新モノ補助では、付加価値額や一人当たり給与支給総額などについて数値目標があります。
目標値については算出根拠を具体的に示すことが求められており、補助事業終了後も毎年度、達成状況が確認されます。
ここで注意したいのは、
事業計画を書く
↓
最後に必要な数字だけ当てはめる
という作り方です。
売上は、【顧客数 × 購入数量 × 単価】など、実際の事業活動から発生します。
その売上から原価・経費・人員計画を考え、利益・付加価値・賃金へつなげる必要があります。
また、審査では高い目標値を設定した場合、単に数値の高さだけでなく実現可能性も含めて評価されます。過去の経営実績と将来計画の間に無理な乖離がないかも確認されます。
したがって、
「審査で高く評価されそうな数字」ではなく、「事業の成長過程から説明できる数字」
を作ることが重要です。
新規事業は補助事業期間だけで完成するとは限らない
新しい製品・サービスを開発しても、すぐに安定した事業になるとは限りません。
実際には、
開発 → 市場投入 → 初期顧客の獲得 → 改良 → 販路拡大 → 収益の安定化
まで数年を要する事業もあります。
新モノ補助でも、補助事業実施期間とは別に、補助事業終了後の3~5年間の事業計画を設定します。
審査でも、事業化に向けた中長期の課題、事業化までの遂行方法・スケジュール、課題の解決方法が確認されます。
したがって、
補助事業期間中に設備を導入・開発・初期の販路開拓等を進める
↓
その後3~5年間で顧客を増やし、事業を成長させる
という時間軸で考える方が自然です。
ただし、3~5年間は単なる「事業化の猶予期間」ではありません。
一人当たり給与支給総額や事業場内最低賃金などには達成要件があり、未達の場合には補助金返還が生じる場合があります。
そのため、新規事業が立ち上がるまでの時間と、達成すべき数値目標の両方を考えた計画が必要です。
資金計画とスケジュールまでつながっているか確認する
良い新規事業でも、実行する資金がなければ事業計画として成立しません。
また、「1年目に販売開始する」という計画なのに、そのために必要な設備の導入や開発が終わるのが2年目では整合しません。
したがって、
何をするのか
→ いつするのか
→ いくら必要なのか
→ どのように資金を調達するのか
→ いつから売上につなげるのか
まで一つにつなげて考える必要があります。
新モノ補助では、事業計画とは別に「財務情報・収益計画」「資金調達表・補助対象予定経費」「スケジュール」のインポート用フォーマットが設けられているのも、このためと考えると分かりやすいでしょう。電子申請ではこれら4種類のフォーマットの使用が必須です。
なお、事業に必要な経費と補助対象経費は同じではありません。
外部支援を受けても、事業計画は申請者自身が作成する
新モノ補助では、事業計画の作成主体についても注意が必要です。
認定支援機関などの外部支援者から、検討やブラッシュアップのための助言を受けること自体は認められています。
一方、応募申請ガイドでは、事業計画そのものは必ず申請者自身が作成する必要があり、作成自体を申請者以外が行うことは認められないと明記されています。
したがって、外部支援を利用する場合も、
内容を丸投げする
のではなく、
自社で事業を考え、必要に応じて整理・検証・ブラッシュアップの支援を受ける
という進め方が基本になります。
これは単なる申請上のルールだけではありません。
実際に3~5年間、新規事業を実行し、数値目標を達成するのは申請企業自身だからです。
まとめ|申請書を書く前に、新規事業を組み立てる
新モノ補助の事業計画は、新製品や設備の説明だけではありません。
重要なのは、

目指す姿から事業計画までが一つにつながっていることです。
公式資料でも、経営戦略との整合性、顧客ニーズ、競争優位性、事業化までの課題・スケジュール、財務・資金調達などをまとめて確認する構造になっています。
そのため、電子申請の入力欄を上から順番に埋める前に、
「自社はなぜこの新規事業を行うのか」
から整理しておくと、その後の申請書へ展開しやすくなります。
[新規事業の骨子]
