新モノ補助のグローバル枠とは?海外市場・商社経由・輸出実績の考え方を解説
グローバル枠は「海外で設備投資する補助金」ではない
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(新モノ補助)のグローバル枠は、海外市場開拓(輸出)に向けて、国内の輸出体制を強化する取組を支援する枠です。
ここは最初に誤解しやすいところです。
グローバル枠だからといって、
海外工場を建設する
海外店舗をつくる
海外に設備を設置する
こと自体を中心とする制度ではありません。
基本となるのは、
自社の製品等を活用して新しい海外販路を開拓する
↓
そのために日本国内の製造・サービス提供体制等を強化する
という事業です。
公式にも、自社の製品等を活用し、自発的に新たな海外販路を開拓するために必要となる国内製造等拠点の強化を対象とすることが明記されています。

グローバル枠の基本条件
グローバル枠を大きく分けると、次の3点が重要です。
- 自社の製品等を活用すること
- 自社にとって新しい海外市場を開拓すること
- その海外市場開拓を自社が主体的に進めること
そして、その実現に必要な国内設備等への投資を行います。
第1回公募では、機械装置・システム構築費または建物費のいずれかを補助対象経費に含める必要があります。
したがって、
海外で売りたい商品がある
だけでも、
国内設備を導入したい
だけでも足りません。
「どの海外市場へ、どのように進出し、そのためになぜ国内投資が必要なのか」
まで一つにつながっていることが重要です。
既存製品の輸出でも対象になり得る
革新的新製品・サービス枠との大きな違いの一つです。
グローバル枠では、製品そのものが新製品であることは必須条件として示されていません。
公式の定義は「自社の製品等を活用」して新たな海外販路を開拓することです。
そのため、例えば、
日本国内ですでに販売している自社製品
↓
これまで販売していなかった海外市場へ輸出
↓
輸出量・仕様・品質要求等に対応するため国内設備を強化
という事業も検討対象になります。
つまりグローバル枠では、「製品が新しいか」よりも、「海外市場が自社にとって新しいか」が重要なポイントになります。
「新しい海外市場」とは何か
公式では、新たな海外市場を、
既存事業では対象としていなかった国・地域の市場
と定義しています。
また、ここでいう「地域」は、統計上、国に準じてカウントされる領域であり、行政区画ではないと明記されています。
例えば、
これまでアメリカ・カリフォルニア州へ販売していた
↓
今度はテキサス州へ販売する
というケースでは、州は行政区画です。
そのため、単に州を変えただけで「新しい国・地域」と説明することは難しいと考えられます。
同様に、
同じ国で販売エリアを広げる
ことだけでは、新しい海外市場とは整理しにくいでしょう。
同じ国で顧客層を変えた場合は?
これも注意したいところです。
新事業進出枠では、顧客のニーズ・属性の違いが「市場の新規性」の重要な判断材料になります。
しかし、グローバル枠では公式が国・地域単位で顧客層が異なることを求めています。事業計画への記載事項でも、今回の顧客層が従来事業と比べて国・地域単位で異なることを示すよう求められています。
したがって、
アメリカの大企業向け
↓
今度はアメリカの中小企業向け
のように、同じ国で顧客層だけを変える場合は、グローバル枠の「新しい海外市場」としては弱いと考えた方がよいでしょう。
グローバル枠では「自社主導」が重要
グローバル枠のもう一つの重要な要件が、自発的な海外販路開拓です。
公式では、
取引先主導の事業は、自発的な取組とはいえず補助対象外
と明記されています。
例えば、
海外展開する取引先から
「今後タイ向けに製品が必要になるので、生産設備を増やしてください」
と依頼された
というケースです。
企業自身は海外向け製品を製造することになりますが、
- 進出国
- 顧客
- 販売先
- 海外戦略
を取引先側が決めているのであれば、自社が海外市場を開拓している事業とは言いにくくなります。
商社を使うとグローバル枠は使えない?
ここは少し慎重に考える必要があります。
現時点の公募要領には、
商社を利用した輸出そのものを禁止する
という規定は確認できません。
一方、審査では、海外販路開拓の戦略が自社の事業戦略に基づくものであることを示すよう求められています。
したがって、ポイントは、「商社を使うかどうか」ではなく、「海外市場開拓を誰が主導しているか」と考えるのが自然です。

自社主導と考えやすい例
例えば、自社が、
- ターゲット国を決める
- 現地市場を調査する
- 顧客層を設定する
- 製品仕様を検討する
- 価格戦略を考える
- 海外展開計画を作る
ところまで主体的に行い、
物流・通関・現地販売実務などを商社に依頼する
という形です。
この場合、商社は海外展開の実行を支援していますが、海外市場開拓の戦略自体は自社にあります。
商社主導と判断されやすい例
反対に、
商社から「この国で売れるから作ってほしい」と提案された
↓
商社が国・顧客・価格等を決める
↓
自社は求められた製品を供給する
という形では、自社による海外販路開拓とは説明しにくくなります。
この場合は、公式が対象外としている「取引先主導」に近づきます。
現時点での整理
商社を利用すること自体が直ちに対象外になるわけではありません。
ただし、国内商社への販売にとどまり、輸出先の選定や販売戦略を商社が主導し、自社が海外販路開拓に関与しない場合は、公式資料で非該当例とされています。
商社を利用する場合でも、自社が進出国・顧客・販売戦略を主体的に検討していることが重要です。
商社を利用していても、自社の海外事業戦略に基づく取組か
を確認することが重要です。
この部分については、今後FAQで具体例が追加された場合に更新します。
すでに少量輸出した国は「新しい海外市場」になる?
ここも判断が難しいケースです。
公式の定義は、
既存事業で対象としていなかった国・地域
です。
したがって、その国へすでに継続的に輸出しているのであれば、「新しい海外市場」と説明するのは難しくなります。
一方、
展示会でサンプルを渡した
市場調査を行った
商談をした
無償サンプルを送った
といった段階までを、すべて「既存事業で対象としていた市場」と扱うのかについては、現時点の公開資料から一律に判断できません。
また、
有償サンプルを1件販売した
テスト輸出を少量だけ行った
といったケースについても、「何円・何個までなら新市場」という数量基準は公表されていません。
そのため、この部分は、
市場調査・商談段階 → 比較的説明しやすい
無償サンプル → 判断要素が増える
有償サンプル・テスト販売 → 既存市場と判断されるリスクが高まる
継続的な輸出 → 新しい海外市場とは説明しにくい
程度の整理にとどめるのが安全です。
このような境界事例については、新規性・市場・開始時期のグレーゾーン【新規事業創出枠】で改めて整理します。
国内の商社がすでに輸出していた場合は?
さらに難しいのが、
自社は日本国内の商社へ販売していただけ
↓
その商社が海外へ輸出していた
というケースです。
この場合、
メーカー自身がその国を既存市場として対象にしていたのか
が問題になります。
現時点の公開資料では、このような間接輸出について明確な線引きまでは示されていません。
そのため、
商社が勝手に輸出していたから、自社にとっては必ず新市場
とも、
製品が海外へ渡っていたから、必ず既存市場
とも断定しない方が安全です。
実際の申請では、
- 自社が輸出先国を認識していたか
- 自社の販売戦略にその国が含まれていたか
- 現地顧客を対象として活動していたか
- 商社への販売が単なる国内取引だったのか
などを整理する必要があるでしょう。
この点も、現状では個別判断が必要なグレーゾーンとして扱います。
海外市場調査だけでは足りない
グローバル枠では、
「海外で売れそうだから輸出したい」
だけでは十分ではありません。
審査では、一般的な事業計画の実現可能性に加えて、グローバル枠について特に、
を十分に把握していることが求められています。
例えば、
- 現地規格・認証
- 輸入規制
- 関税
- 販売チャネル
- 商取引慣行
- 現地顧客が求める仕様
- アフターサービス
- 価格競争
などです。
つまり、「海外市場規模が大きい」だけではなく、
その国で本当に売るところまで具体化できているか
を見る制度と考えた方がよいでしょう。
国内投資と海外戦略がつながっていることが重要
例えば、
タイ市場へ進出したい
↓
現地では〇〇規格への対応が必要
↓
既存設備ではその仕様の製品を安定生産できない
↓
国内工場へ新設備を導入する
↓
商社等も活用してタイ市場へ販売する
という計画なら、海外市場開拓と国内投資の関係が比較的明確です。
一方、
海外売上を増やしたい
↓
とりあえず最新設備を購入する
では、なぜその設備が海外展開に必要なのかが分かりません。
ここでも、設備そのものより、
海外事業を実現するために、なぜその投資が必要なのか
という関係が重要になります。
これは他の申請枠と同じく、補助金に合わせて設備を選ぶのではなく、事業を先に整理してから投資を決めるという考え方につながります。
グローバル枠の補助率・補助上限
第1回公募では、グローバル枠の補助率は2/3です。
補助上限額は従業員数によって次のように設定されています。
| 従業員数 | 基本上限 | 賃上げ特例適用時 |
|---|---|---|
| 1~20人 | 2,500万円 | 3,000万円 |
| 21~50人 | 4,000万円 | 5,000万円 |
| 51~100人 | 5,500万円 | 7,000万円 |
| 101人以上 | 7,000万円 | 9,000万円 |
補助下限額は750万円です。
また、補助事業実施期間は、交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内)とされています。
※公募回によって変更される可能性があるため、申請時には最新公募要領を確認してください。
グローバル枠で使える対象経費
グローバル枠では、次の経費が対象になり得ます。
機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費に加えて、海外旅費と通訳・翻訳費がグローバル枠独自の経費として設定されています。
機械装置・システム構築費または建物費のいずれかを含めることが必須です。
対象経費全般については対象経費・対象外経費で詳しく整理しています。
海外旅費
グローバル枠では、海外市場開拓に必要不可欠な海外渡航・宿泊等について、海外旅費を計上できます。
第1回公募要領では、
海外旅費の補助対象経費上限 → 補助対象経費総額(税抜)の5分の1とされています。
また、一度の渡航について、事業者3名まで
専門家・通訳者が同行する場合は、事業者3名+専門家・通訳者2名まで
とされ、1人当たりの補助金額には最大50万円の上限があります。
当然ながら、補助事業とは関係のない海外旅行は対象になりません。また、海外渡航計画は交付申請時にあらかじめ申請することが求められます。
通訳・翻訳費
グローバル枠では、事業遂行に必要な通訳・翻訳費も対象になります。
第1回公募要領での上限は30万円(税抜)です。
ただし、翻訳なら何でも対象になるわけではありません。翻訳について対象になるのは、広告宣伝・販売促進に必要な翻訳です。
例えば、
- 海外向けパンフレット
- 製品紹介資料
- 海外向け販促コンテンツ
などが考えられます。
一方、事業計画に関する契約書の翻訳は対象外と明記されています。
グローバル枠には独自の加点もある
第1回公募では、グローバル枠だけを対象とした加点項目も用意されています。
具体的には、
- 新規輸出1万者支援プログラム加点
- 日本の食輸出1万者支援プログラム加点
があり、該当するポータルサイトで申請事業者自身が登録を完了していることが条件です。
ただし、加点はあくまで審査上のプラス要素です。
まずは事業そのものがグローバル枠の要件を満たしていることが前提になります。
グローバル枠が向いている事業
グローバル枠は、例えば次のような事業と相性があります。
国内で一定の販売実績がある製品を、新しい海外市場へ本格輸出する
海外市場向けの仕様・規格へ対応するため、国内生産設備を強化する
新しい国への輸出増加を見込み、国内の製造能力・品質管理体制を強化する
新しい海外市場へサービスを提供するため、国内のサービス提供基盤を整備する
一方、
すでに輸出している国への単純な増産
海外取引先から頼まれたから設備を増やすだけ
海外工場への設備投資そのものが中心
国内設備と海外展開との関係が説明できない
といった計画は、グローバル枠の基本的な考え方との適合性を慎重に確認した方がよいでしょう。
グローバル枠を考えるときのポイント
グローバル枠を検討するときは、
どの国・地域へ進出するのか
だけでなく、
なぜその市場なのか
誰が顧客なのか
現地では何が求められているのか
競合と何が違うのか
現地特有のリスクは何か
なぜ国内投資が必要なのか
どのように販売・事業化するのか
まで整理することが重要です。
審査でも、海外販路開拓戦略が自社の事業戦略に基づいていること、市場・顧客・競争優位、実施体制、事業化までの課題やスケジュールが確認されます。グローバル枠ではさらに、輸出先固有の文化・法規制・商習慣等への理解も求められます。
つまり、グローバル枠についても、「海外向け設備投資をする申請書」ではなく、「新しい海外市場へ進出する事業計画」として考える必要があります。
まとめ|グローバル枠は「国内投資+自社主導の新海外市場開拓」
グローバル枠を一言で整理すると、
自社主導で新しい海外市場を開拓し、その実現に必要な国内の製造・サービス提供体制を強化する制度
です。
特に重要なのは、
新しい国・地域であること
自社の事業戦略に基づいていること
国内投資と海外市場開拓がつながっていること
です。
既存製品を輸出する事業でも対象になり得ますが、
「既存輸出国の単純拡大」や「取引先・商社に任せきった海外展開」とは区別して考える必要があります。
また、過去の少量輸出、サンプル提供、商社経由の間接輸出などについては、現時点では一律に白黒を付けられない部分があります。
このあたりは公式FAQ等の追加情報で詳細が判明しましたら解説記事を作成します。
