埼玉県の経営革新計画の記載例について

埼玉県が公表しているモデル様式(有限会社まがたま食堂の記載例)を基に、書き方のポイントを整理しました。
申請書作成時の参考資料としてご活用ください。
【埼玉県版】経営革新計画モデル様式の閲覧はこちら(埼玉県公式サイト)
「提出書類について」→「新規の承認申請をする場合」→「特記事項」の列
【申請書記載例(word版)】と、【事業計画書:参考様式(2)記載例(Excel版)】が公開されています。
※最新の様式・公募要領は、必ず埼玉県の公式サイトでご確認ください。
なお、事業計画書の様式は自由ですが、「売上・経費の算出根拠や借入金返済計画等の各種項目を漏れなく記載してください。」との注意書きがあるため、自社の既存資料などで代替する場合も、必ず記載例の内容を確認してください。
1. 最初に
このページでは、埼玉県が公表している経営革新計画のモデル様式(有限会社まがたま食堂/テーマ「まがたま弁当」の販売開始)を題材に、記載のポイントを解説します。
埼玉県公式サイトで公開されている資料
埼玉県の経営革新計画のページでは、以下の資料が公開されています。それぞれの位置付けを整理すると、迷わず作成を進められます。
| 資料名 | 位置付け |
|---|---|
| 承認申請書(様式第1号・別表1〜8)Word版 | 提出する申請書一式の本体。窓口申請の場合に使用 |
| 別表3 Excel版 | 別表3(経営計画及び資金計画)を単体で作成する場合の様式 |
| 記載上の注意点 Word版 | 各欄の記入ルールを解説した公式資料 |
| 申請書記載例 Word版 | まがたま食堂を題材にした記載例。本記事の5〜10章で解説 |
| 別表3作成用フォーマット(参考)Excel版 | 別表3の数値を積み上げるための計算補助シート |
| 事業計画書 参考様式 Excel版 | 任意様式で提出する事業計画書の記載例。本記事の11章で解説 |
なお、電子申請の場合は承認申請書(様式第1号)自体は不要で、経営革新計画電子申請システムの該当フォームに直接申請情報を入力する形になります。別表1〜8に相当する内容は、システム上の入力項目として反映されます。
2. ポイント
まがたま食堂のモデル様式から読み取れる、記載のポイントは次の通りです。
新事業活動の類型で2つを選択している
新事業活動の類型は「①新商品の開発又は生産」と「③商品の新たな生産又は販売の方式の導入」の2つに丸印が付いています。
「まがたま弁当」という新商品の開発(①)と、店内飲食が中心だった業態にテイクアウト・宅配という新たな販売方式を導入すること(③)を、両方の類型に対応させて説明している構成です。選んだ類型と本文の記載内容が一致しているかは、審査で必ず確認される点です。
数値目標の設定
経営革新計画の承認には、事業期間に応じた付加価値額・給与支給総額の伸び率の基準を満たす必要があります。このモデル様式では、事業期間3年に対して付加価値額の目標伸び率を105.9%(現状7,306千円→計画終了時15,042千円)と設定しており、制度上の必須基準を大きく上回る水準にしています。
給与支給総額の伸び率も76.4%と高水準です。数値目標は単純に基準を満たすことを基準に考えるのではなく、根拠のある具体的な計画に基づいて設定している姿勢が読み取れます。
自社の強みを具体的に記載している
「社長は料理専門学校で就学した後、割烹料理店で8年間仕事をしており、食材の目利きと調理技術には確かなものを持っている」という記載があります。抽象的な自己評価ではなく、経歴という事実に基づいて強みを説明している点がポイントです。
既存事業とのすみ分けを明確にしている
「既存事業では店内飲食のみの提供だったが、新規事業では持ち帰り・配達向けの弁当販売を開始する」と、既存事業と新規事業の違いを明示しています。経営革新計画は既存事業の延長線上にある新たな取り組みを評価する制度であるため、この違いの説明は欠かせません。
新規性は、「当社としての新規性」と「業界としての新規性」の2軸に分けられます。「業界としての新規性」の判断基準は都道府県で異なる印象ですが、「当社としての新規性」は全ての都道府県で必須です。
実施体制を身の丈に合わせて記載している
実施体制は「社長が中心となり、従業員の意見を取り入れながら進める」「協力してくれる仕入れ先を開拓していく」という記載にとどまっています。外部との連携を無理に打ち出すのではなく、自社の体制で完結できる内容にしている点は、小規模事業者が計画を作成する際の参考になります。
3. よくある質問
- 新事業活動の類型は複数選んでもよいですか?
-
可能です。まがたま食堂のモデル様式でも、①新商品の開発又は生産と③商品の新たな生産又は販売の方式の導入の2つに丸が付いています。ただし、選んだ類型のすべてについて、本文中で対応する説明が必要です。丸を付けた類型と実際の記載内容がずれていると、修正を求められることがあります。
- 既存事業の売上が減少している状況でも申請できますか?
-
申請できます。まがたま食堂のモデル様式でも「競合店の進出や周辺住民へのPR不足により客数が減少傾向にある」という経営課題を出発点として、新規事業による打開策を計画しています。現状の課題を正直に記載したうえで、新規事業によってどう改善するのかを具体的に示すことが重要です。
- 連携先(協力企業)がいなくても申請できますか?
-
問題ありません。実施体制は自社の役員・従業員を中心とした構成で問題ありません。仕入れ先の開拓など、社外との関わりがある場合は、その関係性を実施体制欄や具体的内容欄に記載します。
- 埼玉県への申請は紙申請と電子申請とどちらが良いですか?
-
埼玉県では令和6年3月27日から経営革新計画電子申請システムによる電子申請を受け付けています。
作成した申請書をブラッシュアップする過程で、商工会議所・商工会の支援を受けることが必要ですので、事前に申請先の機関に確認することをお勧めします。(打ち合わせが必要になることが多いため)
4. 生成AIの使用に関する注意点
経営革新計画の記載内容を生成AIで下書きする場合、自社の数値や経歴など、実際の情報に置き換えずに提出してしまうと、審査で事実確認ができず修正を求められることがあります。生成AIはあくまで文章構成やたたき台作成の補助として使い、記載する数値・固有名詞は必ず自社の実情に基づいて確認してください。

5. (別表1)経営革新計画の解説
申請者名・資本金・業種
業種欄には日本標準産業分類のコードを記載する欄があります。まがたま食堂のモデル様式では「761(食堂,レストラン(専門料理店を除く))」が記載されています。自社の業種コードは、政府統計の総合窓口(e-Stat)などで検索して確認します。
実施体制
どのような体制で新規事業に取り組むのかを記載する欄です。まがたま食堂のモデル様式では「社長が中心となり、従業員の意見を取り入れながら進める」「協力してくれる仕入れ先を開拓していく」という、無理のない体制が記載されています。実現可能性を説明するうえで重要な欄のため、誰が・どのような役割で関わるのかを具体的に書きます。
新事業活動の類型
計画の対象となる類型すべてに丸を付ける欄です。1〜6の類型のうち、実際の取り組み内容に合致するものを選びます。選んだ類型と本文中の説明が一致していることが必須です。
経営革新の目標
新規事業に取り組む背景(現状の課題)と、目指す姿を記載する欄です。まがたま食堂のモデル様式では、客数減少という経営課題と、既存の経営理念を変えずに新商品で顧客の裾野を広げるという目標が、簡潔にまとめられています。
6. 経営の向上の程度を示す指標の考え方
経営革新計画では、付加価値額(または一人当たり付加価値額)と給与支給総額について、事業期間に応じた目標伸び率の基準を満たす必要があります。まがたま食堂のモデル様式では、事業期間3年に対して以下の目標を設定しています。
付加価値額:7,306千円 → 15,042千円(伸び率105.9%)
一人当たり付加価値額:2,435千円 → 3,008千円(伸び率23.5%)
給与支給総額:5,500千円 → 9,700千円(伸び率76.4%)
【重要】数値の矛盾はNG
数値目標は、別表3の経営計画及び資金計画の数値と連動している必要があります。別表1に記載した目標伸び率と、別表3で積み上げた売上・費用から算出される伸び率が一致しているかを、作成の最終段階で必ず確認してください。
(特段の理由が無い限りは、埼玉県HPで公開されている【別表3作成用フォーマット(参考)】を使用して作成してください。)
7. 経営革新の実施に係る内容の書き方
この欄は、経営革新計画の中で最も文字数が多く、内容の説得力を左右する部分です。まがたま食堂のモデル様式は、次の構成で書かれています。
1. 当社の現状と経営課題:創業経緯、立地環境、店舗規模、営業時間などの現状と、客数減少という経営課題を記載
2. 経営革新の具体的内容:新規事業について(新商品の開発と販売、販売促進、仕入れの改善)を項目ごとに整理
3. 既存事業との相違点:既存事業と新規事業の違いを箇条書きで明示
他の都道府県と比較して、新規性が弱い(地域としての新規性はあるが、業界としての新規性が無い)半面、実現可能性に係る部分の説明が詳しくなされています。
現状説明を数字や固有の事実(席数、営業時間、立地条件など)を交えて具体的に書くことで、実現可能性の説明に厚みが出ます。抽象的な表現よりも、確認できる事実を積み重ねる書き方が参考になります。
下記ページは他の都道府県を想定して記載しているため、埼玉県の場合では新規性の要件が実態より厳しく記載されている可能性がありますが、参考までに是非ご覧ください。

8. (別表2)実施計画の解説
別表2は、経営革新の具体的内容を実行スケジュールに落とし込む欄です。まがたま食堂のモデル様式では、次のようなルールで整理されています。
番号:「1」「1-1」「1-2」のように、大項目と実施項目を関連付けて記載
実施項目:具体的な行動内容を記載(例:店頭販売開始、宅配の実施、ポスティング活動)
評価基準:できるだけ定量化した基準を設定(例:販売数量、配布数量、客数)
評価頻度:進捗を評価する頻度を記載(例:毎月、毎週末)
実施時期:四半期単位で記載(例:1-2〜3-4は初年度第2四半期から3年目第4四半期まで)
評価基準を「頑張る」「向上させる」といった抽象的な表現にせず、数量で確認できる形にしておくことが、実施計画としての説得力につながります。
9. (別表3)経営計画及び資金計画の解説
別表3は、売上高から付加価値額までを数年分並べて記載する財務計画の中心となる別表です。
数字の整合性が極めて重要になりますので、先に記載した通り、埼玉県HPで公開している【別表3作成用フォーマット)】の利用を強くお勧めします。
付加価値額の計算式
付加価値額は「営業利益+人件費+減価償却費」で計算します。まがたま食堂のモデル様式では、これを②売上原価・④販管費に含まれる人件費・減価償却費を⑧・⑪として別掲する形で整理しています。
大小関係の矛盾に注意する
数値を積み上げる際、次のような大小関係の矛盾が起きやすいので注意してください。
(例)人件費の矛盾
人件費は売上原価または販売費及び一般管理費の一部として計上するため、次の関係が成り立たないことはありません。つまり、
売上原価+販売費及び一般管理費 < 人件費 となることはありません。
製造担当分の人件費を売上原価に、営業担当分の人件費を販管費に、それぞれ正しく振り分けて計上しているかを、計画書作成の最終段階で縦横に照合することをおすすめします。
資金調達額の内訳
金調達額の欄では、設備投資額・運転資金の調達先を「政府系金融機関借入」「民間金融機関借入」「自己資金」「その他」に分けて記載します。まがたま食堂のモデル様式では、自己資金での調達を中心とした計画になっています。

10. (別表4)設備投資計画・運転資金計画の解説
設備投資計画
導入する設備の名称、単価、数量、導入時期(○年○月期)を記載します。まがたま食堂のモデル様式では、店舗改装費(ファサード・パラペット看板)と軽ワゴン車(宅配用)の2件が計上されています。設備は新規事業に直接関係するものに限定して記載します。
運転資金計画
運転資金計画で審査員が確認するのは、増加運転資金であり、事業に必要な資金の全額ではありません。まがたま食堂のモデル様式では、事業期間中の年度ごとに必要となる増加運転資金額を記載しています。
11. 事業計画書(任意様式)の書き方
経営革新計画の承認申請書(別表1〜8)とは別に、事業計画書の提出を求められる場合があります。事業計画書は任意の様式でも申請可能ですが、埼玉県は参考様式(事業計画書作成例②)を公開しており、売上・経費の算出根拠や借入金返済計画等の項目を漏れなく記載することが求められています。
参考様式もまがたま食堂を題材にしており、承認申請書とは異なる観点の項目が含まれています。
会社概要
業種欄には「日本標準産業分類上の小分類を記入」という注記があります。別表1の業種コード欄と対応させて記載します。従業員数は「社員1人、パート・アルバイト2人(参考:役員1人)」のように、雇用形態ごとの内訳を明記する形式です。
現状分析(SWOT分析)
内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を整理する欄があります。まがたま食堂の記載例では、次のように事実に基づいた記載がされています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 強み(内部要因) | ・社長の調理技術と食材知識・直売所や農家との人脈・パートスタッフの勤務歴の長さ |
| 弱み(内部要因) | ・駐車場が少なく商圏拡大が難しい・席数に限りがあり機会ロスが生じている |
| 機会(外部要因) | ・中食化の進展・健康志向の高まり・徒歩圏内の周辺人口 |
| 脅威(外部要因) | ・競合店の進出・近隣事業所の移転懸念・同業者のテイクアウト・宅配参入 |
強み・弱みは自社の内部要因、機会・脅威は自社でコントロールできない外部要因という整理で書き分けます。
【参考】クロスSWOT分析
| 区分 | 戦略内容 |
|---|---|
| SO戦略(強み × 機会) | ・社長の調理技術と食材知識を活かし、中食化・健康志向に対応した新商品を開発する・農家との人脈を活かし、地場食材を使った健康志向メニューを強化する・徒歩圏内の周辺人口に向けて、地場食材を訴求したテイクアウト商品を展開する |
| WO戦略(弱み × 機会) | ・駐車場不足を補うため、徒歩圏内の住民向けにテイクアウト・中食商品を強化する・席数の制約を踏まえ、健康志向の弁当・惣菜を拡充し機会ロスを減らす・中食化の進展を活かし、店内飲食に依存しない売上構造を構築する |
| ST戦略(強み × 脅威) | ・社長の調理技術と食材知識を活かし、競合店との差別化を図る・農家との人脈を活かし、他店が模倣できない地場食材メニューで競争優位を確保する・パートスタッフの熟練度を活かし、テイクアウト・宅配参入の競合より品質で優位に立つ |
| WT戦略(弱み × 脅威) | ・駐車場不足を踏まえ、競合の進出に対抗するため徒歩圏内の固定客を強化する・席数制約により競合の宅配参入に不利なため、自店もテイクアウト・中食商品を強化する・近隣事業所の移転リスクに備え、周辺住民向けの販売比率を高める |

新たな取り組み
テーマ・具体的内容は別表1と共通する内容ですが、この様式ではさらに「新規性」「市場・ターゲット」「販売方法」の3項目に分けて記載する欄が用意されています。同じ新規事業について、切り口を変えて説明を厚くする構成です。
売上・利益計画
新規事業分と既存事業分を分けて、直近期末から計画終了年度まで記載する表です。まがたま食堂の記載例では3年目までの計画になっています。①売上高から⑩税引後利益まで、損益計算書に準じた項目が並びます。
売上・経費の算出根拠を数式で示す
この様式で特に参考になるのが、売上高の算出根拠を数式で明示している点です。埼玉県では、実現可能性を重視していることの表れともいえます。
既存事業:(昼客単価750円×36席回転+夜客単価1,500円×18席回転)×26日×12か月=16,850千円
新規事業1年目:(昼500円×30食+夜700円×20食)×26日×8か月=6,032千円
客単価・回転数(食数)・営業日数・月数という4つの要素に分解して計算根拠を示すことで、数値の妥当性を第三者が検証できる書き方になっています。別表3の数値を作成する際も、同じ考え方で根拠を積み上げることをおすすめします。
設備投資計画・借入金返済計画
設備投資は「①年目(導入期1-1)」のように、別表2の実施時期の番号と対応させて記載します。借入金返済計画では、当期利益に減価償却費を足し戻した金額を返済原資とし、新規借入額・返済額・期末借入金残高までを資金繰りの形で示します。
12. まとめ
埼玉県の経営革新計画モデル様式は、小規模な飲食店を題材にしながらも、類型の選び方・数値目標の設定・既存事業とのすみ分けなど、記載の基本がコンパクトに詰まった内容になっています。承認申請書(別表1〜8)と事業計画書(任意様式)は目的が異なりますが、同じ数値を使って整合性を取りながら作成すると、審査でも金融機関への説明でも一貫した計画として通用します。
