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【事例分析】売れているのになぜ赤字?自由創作みがと居座屋の事例から考える新規事業の採算管理

売れているのになぜ赤字?実例から考える新規事業の採算管理

売れることと、事業として成立することは違う

新しい商品やサービスを販売し、注文が増えてくる。新規事業に取り組む企業にとっては、手応えを感じる場面です。
「この事業はいけそうだ」と考えるのも自然でしょう。

しかし、当サイトの「新規事業の事業化とは?」で整理しているように、事業化のゴールは、単に商品が売れることではありません。

顧客に選ばれ、継続して提供でき、最終的に売上と利益を生み出せる状態にすることが必要です。

その違いが非常に分かりやすい実例があります。
青森県青森市の飲食店、自由創作みがと居座屋のEC事業です。
同店では、新しく始めたピザのEC販売が好調となり、月次売上が本業の居酒屋を上回るほどに成長しました。
ところが、会社全体の営業利益は赤字になっていました。
中小企業庁の2025年版小規模企業白書でも、「新規事業のEC販売がヒットするも、全社の営業利益は赤字に転落」した事例として紹介されています。 (中小企業庁)

今回はこの事例を通して、なぜ売上が増えても利益が残らないことがあるのか
そして、
新規事業ではどの数字を確認しながら事業化を進めるべきなのか
についてを、当サイトでこれまで整理してきた事業化ストーリー、4つの壁、ロードマップ、KPIの考え方と結び付けて考えてみます。

※本記事は、自由創作みがと居座屋や個別の経営判断を評価することを目的としたものではありません。中小企業庁が公開している経営改善事例をもとに、新規事業の事業化について考えるケーススタディです。

常連客の声から始まった新しいEC事業

自由創作みがと居座屋は、青森県の家庭料理を提供する居酒屋です。
公式サイトでも、店主が昔から食べてきた家庭の青森料理や、「友達の家で楽しく食事をするような」店づくりを特徴として掲げています。 (自由創作みがと居座屋)

新規事業のきっかけは、顧客の声でした。遠方に住む常連客から、
「店の料理を取り寄せたい」
という要望が寄せられるようになり、当初は個別に対応していました。
しかし、要望が増えるにつれて対応の手間も増えていきます。
そこで、自宅でも調理しやすい商品としてピザに絞り、2021年に大手ECプラットフォームを利用した販売を開始しました。

青森県産にんにくを使ったピザがブログやテレビ番組で紹介されたことで注文が増加。感染症拡大によって居酒屋の売上が落ち込む中、EC販売がその減少分を補うほどまでに成長しました。 (中小企業庁)

これは、新規事業の始まり方として非常に分かりやすい例です。

既存顧客から新しいニーズが見つかる
 → 商品を絞る
  → 新しい販売方法を作る
   → 顧客に支持される

ところまで進んでいます。
サンコーの事例では「商品が注目されても購入につながらない」という市場の壁を見ました。

今回の事例は反対です。商品は実際に売れました。それでも、新しい問題が現れます。

ECの売上は居酒屋を超えた。それでも赤字だった

2022年にはEC販売がさらに伸び、月次売上は居酒屋事業を上回るまでになりました。
普通なら、「新規事業は成功した」と判断したくなるところです。
ところが、営業利益は赤字でした。
代表は資金繰りについて日本政策金融公庫へ相談し、その際に「まず赤字の原因を確認する必要がある」と指摘され、青森県よろず支援拠点につながりました。

ここが今回の事例で最も重要なところです。

売上が増えることと、利益が増えることは同じではありません。

新規事業では、売上が増えていると事業が順調に見えるため、採算の問題に気付きにくいことがあります。

原因は「売るほど利益が出る」とは限らない価格設定だった

青森県よろず支援拠点の支援を受け、財務分析を行ったことで原因が見えてきます。
それまで商品ごとの利益率やコストを十分に把握せず、必要経費を過小に見積もった価格設定になっていました。
その後、税理士も交えて固定費と変動費を分け、限界利益率などを確認。
その結果、EC販売のピザでは、2枚以下で販売すると限界利益がマイナスになることが分かりました。
これは事業化を考えるうえで非常に重要な事実です。

仮に、
1件注文が増えるたびに売上は増えるとしても、その注文によって増える費用の方が大きければ、
売れば売るほど利益面では苦しくなることがあります。

新規事業では、「売れるかどうか」だけでなく、「その条件で売って利益が残るか」まで確認する必要があります。

事業化ストーリーは「売上」で終わらない

当サイトの「事業化ストーリー」では、

経営資源
 → 提供する仕組み
  → 顧客に生まれる成果
   → 事業成果

というつながりで、新規事業を考えています。
今回の事例では、

顧客ニーズを捉える
 → ピザを商品化する
  → ECで届ける
   → 顧客に購入してもらう

ところまでは、しっかりつながっています。
つまり、サンコーの事例とは違い、市場で購入されるところまでは成立していたわけです。
しかし、事業成果を「売上」だけで考えると、その先にある問題を見落とします。

本来は、

購入される
 ↓
売上が生まれる
 ↓
必要なコストを差し引く
 ↓
利益が残る
 ↓
事業を継続できる

ところまでつなげる必要があります。
関連記事:新規事業の事業化ストーリーの作り方|売上・利益までの道筋をつなぐ

「資金の壁」は売上がないときだけ現れるわけではない

当サイトでは、事業化を阻む課題を、
市場・技術・資金・社内
の4つの壁として整理しています。

今回の事例では、特に資金の壁との関係が分かりやすくなります。

資金の壁というと、
「新規事業を始めるためのお金がない」
「設備投資資金を調達できない」
といった問題をイメージしやすいかもしれません。

しかし、資金の問題は事業開始前だけに起きるわけではありません。

売上が伸びても、
「原材料費」「包装費」「送料」「EC手数料」「広告費」「人件費」「その他の提供コスト」
などが膨らめば、利益や手元資金が残らないことがあります。
自由創作みがと居座屋の場合も、資金繰りについて相談したことが、赤字の原因を詳しく調べるきっかけになりました。

つまり、
「売れているから資金面は大丈夫」とは限りません。

事業が伸び始めたときほど、

商品ごとの採算
売ることで増えるコスト
利益率
資金繰り

を確認する必要があります。

関連記事:新規事業の事業化を阻む4つの壁|市場・技術・資金・社内の課題

売上を減らして、収益性を改善した

原因が分かった後、自由創作みがと居座屋は販売方法を見直しました。
2枚以下での販売を改め、価格が比較的手頃で利益率の高い5枚セットなどのまとめ売りを積極的に打ち出しました。
さらに、販売価格、販売方法、広告宣伝方法も見直しています。
興味深いのは、その結果です。
EC販売の売上そのものは減少しました。
しかし、限界利益率は、17.7% → 25.2%へ改善しました。

つまり、
売上を追う経営から、利益を残す経営へ判断基準を変えたわけです。
これは、新規事業の事業化を考えるうえで非常に参考になります。

売上高だけを見れば、
「売上が減ったので悪化した」ようにも見えます。
しかし、事業として継続できるかという観点では、利益率が改善したことの方が重要です。

KPIで見るべき数字は、事業の段階によって変わる

この事例は、当サイトの「KPI・進捗管理」を具体的に理解するうえでも使いやすい例です。
EC事業を始めたばかりの段階では、「注文数や売上」を見ることには意味があります。
市場に受け入れられるかを確認する必要があるからです。
しかし、売れることが確認できたら、次は見る数字を変える必要があります。

例えば、

売上高・注文数・客単価・商品別原価・限界利益・限界利益率

といった数字です。

今回の事例では、売上だけを見ると好調でした。
しかし、限界利益まで確認したことで、

売れ方そのものに問題がある

と分かりました。

これはKPIを設定するときにも重要です。
KPIは、一度決めた数字をずっと追い続けるものではありません。

事業化の段階が変われば、「今は何を確認する必要があるのか」に応じて指標も変える必要があります。

関連記事:新規事業のKPI・進捗管理|成果と行動を確認しながら事業化を進める

事業化ロードマップでも「採算確認」を飛ばさない

当サイトの事業化ロードマップでは、

商品・サービスを仕上げる
   ↓
採算と提供条件を固める
   ↓
継続して提供できる体制を整える
   ↓
実際の顧客で確かめる
   ↓
本格展開する

という流れで整理しています。
今回の事例を見ると、なぜ「採算と提供条件を固める」という段階が必要なのかがよく分かります。
商品が売れ始めると、「もっと売ろう」と考えたくなります。

しかし、その前に、

いくらで売るのか
何個単位で売るのか
1件売るとどれだけ費用が増えるのか
最終的にいくら残るのか

を確認する必要があります。ここを飛ばして販売量だけを増やすと、
売上と一緒に赤字まで大きくなる可能性があります。
事業化ロードマップは単なるスケジュールではありません。

次の段階へ進む前に、「この条件で事業を広げても大丈夫か」を確認する役割もあります。

関連記事:新規事業の事業化ロードマップの作り方|開発後から本格展開までの進め方

数字を理解したことが、本業の改善にもつながった

自由創作みがと居座屋の事例の良いところは、EC事業だけを改善して終わっていないことです。
代表自身が商品ごとのコストや利益率を意識して経営するようになり、その知識を本業の居酒屋にも活用しました。
宴会プランの価格を原価率を意識して見直したほか、仕入れ方法や注文・提供方法なども改善。
その結果、客単価は約800円上昇し、居酒屋事業の売上・利益も増加しました。POSレジの導入によって売上管理の負担も減り、新しい事業を検討する余力まで生まれています。

公式サイトでは店舗営業に加え、にんにくを使ったピザや手羽先などの通販商品が案内されています。

つまり今回のケースは、

新規事業で採算上の問題が発生した
 → 数字を分析した
  → 新規事業を改善した
   → 得た知識を既存事業にも展開した

というところまで進んでいます。
単なる赤字改善事例ではなく、新規事業への挑戦をきっかけに、経営そのものが数字を使った経営へ変わった事例として見ることができます。

この事例を当サイトの「事業化」で整理すると

今回の流れを整理すると、次のようになります。

実際に起きたこと事業化で見るポイント
常連客の「取り寄せたい」という声顧客ニーズ
ピザに絞ってEC販売を開始新規商品・販売方法
メディア紹介などで注文増加市場性を確認
EC月商が居酒屋を上回る売上という成果
それでも営業赤字資金・採算の壁
コストと限界利益を分析KPI・進捗管理
2枚以下の販売を見直す提供条件の修正
5枚セットなどを強化事業化ロードマップの修正
限界利益率17.7%→25.2%事業成果の改善
本業にも数字による経営を展開学びを経営全体へ活用

自社の新規事業なら、何を確認するか

この事例を自社に置き換えるなら、商品が売れ始めたときこそ次の点を確認する必要があります。

  • 商品・サービスごとの原価を把握できているか
  • 1件販売すると、どの費用がどれだけ増えるか
  • 売上だけでなく、粗利益や限界利益を確認しているか
  • 価格は必要なコストを反映しているか
  • 販売数量や販売単位によって採算が変わらないか
  • 広告費、送料、手数料などを含めても利益が残るか
  • 売上を増やすこと自体が目的になっていないか
  • 事業を広げる前に採算を確認する段階を置いているか

特に、

「売れているから成功している」という判断には注意が必要です。

新規事業が市場に受け入れられることは重要ですが、最終的には、

売れる + 利益が残る + 継続できる

ところまで確認する必要があります。

「売上」から「利益」へ視点を広げるのも事業化

サンコーの事例では、注目されることと、売れることは違うということを確認しました。
今回の自由創作みがと居座屋の事例では、そのもう一つ先、売れることと、利益が残ることも違う
ということが分かります。

この2つを並べると、新規事業の事業化がかなり見えやすくなります。

商品を作る → 顧客に知ってもらう → 購入してもらう → 売上をつくる →利益を残す
  →継続できる事業にする

商品開発から事業化へ進むということは、この流れを一つずつつないでいくことでもあります。
自由創作みがと居座屋の事例で特に参考になるのは、赤字になったこと自体ではありません。

数字を調べて原因を把握し、販売方法を変え、収益性を改善したことです。

そして、そこで得た知識を既存事業にも展開しています。

当サイトで、

事業化ストーリー」「4つの壁」「事業化ロードマップ」「KPI・進捗管理」

を分けて整理しているのも、このように問題が起きたとき、
どこに問題があり、何を修正すればよいかを考えやすくするためです。
新規事業は、売れた瞬間に完成するわけではありません。

実際の数字を確認し、採算を整え、継続して利益を生み出せる形へ修正していく。

これも、本サイトで考える「事業化」の重要な部分です。

関連記事

新規事業の事業化とは?
→ 商品開発後から事業として立ち上げるまでの全体像

新規事業の事業化ストーリーの作り方
→ 売上・利益までの道筋をつなぐ

新規事業の事業化を阻む4つの壁
→ 市場・技術・資金・社内の問題を整理する

新規事業の事業化ロードマップの作り方
→ 本格展開する前に何を確認するか

新規事業のKPI・進捗管理
→ 売上だけでは見えない事業の状態を確認する

事例:新商品は完成したのになぜ売れない?サンコーの事例
  → 「注目される」と「購入される」の違いを考える

参考資料

中小企業庁「2025年版 小規模企業白書 事例2-1-9 自由創作みがと居座屋」
自由創作みがと居座屋 公式サイト