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経営力向上計画の書き方・記載例

経営力向上計画は、申請書そのものは比較的シンプルですが、実際に作成する際には、経営課題や目標指標、設備投資、人材育成、必要資金などを事前に整理する必要があります。
そこで本ページでは、金属部品加工業の架空企業を例に、これらの内容をどのように整理し、経営力向上計画に落とし込むのかを具体的に紹介します。

経営力向上計画は、申請書そのものは比較的シンプルですが、実際に作成する際には、

  • どの事業分野別指針を使うのか
  • 現状の経営課題をどう整理するのか
  • どの指標で経営力向上を示すのか
  • 設備投資と人材育成をどう結び付けるのか
  • 必要資金や税制対象設備をどう整理するのか

といった事前の判断が必要になります。

そこで本ページでは、金属部品加工業の架空企業「B社」を例に、経営力向上計画をどのように組み立てるのかを紹介します。

今回のB社は、従業員12名、売上高2億円の金属部品加工会社です。高性能マシニングセンタへの設備更新だけでなく、加工ノウハウの標準化と若手社員の育成を組み合わせて、既存事業の生産性向上を図る計画としています。
本ページで紹介する作成事例は、実際の電子申請項目に沿って内容を整理したものです。正式な申請では、経営力向上計画申請プラットフォームの入力項目に沿って申請します。

※本事例は架空の企業による作成例です。実際の申請では、自社の事業内容、財務数値、設備内容、事業分野別指針等に置き換えてください。

B社の経営力計画の全体像

B社は、産業機械メーカーや自動化装置メーカーなど約30社から、治具、工具保持具、精密金属部品などの加工を受託しています。

多品種少量生産を得意としていますが、立形マシニングセンタのうち1台が導入後15年以上経過しています。また、高度な加工条件の設定や異常時の判断が熟練者2名に集中しています。

今回の計画は、
老朽設備の更新+加工ノウハウの標準化+若手社員の育成
によって、既存の金属加工事業を強化するものです。新商品・新サービスを開発する計画ではありません。

1.まず会社情報と事業分野を整理する

最初に、会社の基本情報と今回の計画に対応する事業分野を確認します。
B社の設定は次のとおりです。

項目B社の設定
業種金属部品加工業
資本金1,000万円
従業員数12名
設立2001年
計画期間3年間
主な取組設備更新・技能標準化・人材育成

事業分野については、B社の主力製品から、日本標準産業分類の製造業・細分類2664 機械工具製造業を想定し、「製造業に係る経営力向上に関する指針」を使用しています。

書き方のポイント

経営力向上計画では、いきなり設備の話から書き始めるのではなく、「今回どの事業の経営力を向上させるのか」
を最初に整理します。
複数の事業を行っている会社では、会社全体の業種だけで判断せず、今回の取組に対応する事業分野を確認することが重要です。

2.現状認識は「事業→市場→経営状況→課題」の順で整理する

B社の作成事例では、現状認識を4つに分けています。

  1. 自社の事業概要
  2. 顧客・市場・競合の動向
  3. 自社の経営状況
  4. 経営課題

電子申請でも、この順序を意識して整理すると書きやすくなります。

2-1.自社の事業概要

B社は、多品種少量の金属加工を行っており、少量対応、図面変更への柔軟な対応、短納期、安定した寸法精度などを強みとしています。

製造部門7名のうち、

  • 熟練者2名
  • 中堅者3名
  • 若手2名

という構成です。

ここでは、

「何をしている会社か」
「どのような顧客がいるか」
「何を強みにしているか」

を簡潔に整理します。

2-2.顧客・市場・競合の動向

B社の顧客では、多品種少量化に加えて、急な部品変更や短納期対応への要求が高まっている設定としています。
一方、地域の競合企業では高性能工作機械への更新が進んでいます。

つまり、

顧客は短納期を求めている
  ↓
競合は設備更新を進めている
  ↓
旧型設備のままではB社の強みを生かしにくくなる

という構造です。

2-3.自社の経営状況

B社の直近期の数値は、

  • 売上高:2億円
  • 営業利益:800万円

としています。
売上自体は増加していますが、旧型設備による加工時間、段取り時間、設備停止、外注利用が収益力を制約しています。また、難易度の高い加工条件の設定などが熟練者2名に集中しています。

2-4.経営課題

ここまで整理した内容を、具体的な課題に落とし込みます。

B社では、

  • 代表的な加工品の加工時間:約60分
  • 平均段取り時間:約60分
  • 再加工・不良率:約3.0%
  • 年間設備停止時間:約80時間
  • 難しい加工判断が熟練者2名に集中
  • 繁忙期には外注や短納期案件の辞退が発生

と設定しています。
単に、「設備が古い」ではなく、「設備が古い結果、どのような経営上の問題が起きているのか」
まで具体化することがポイントです。

3.ローカルベンチマークで経営状況を数値化する

B社では、ローカルベンチマークについて次の目標を設定しています。

指標現状計画終了時
売上高増加率2.6%3.8%
営業利益率4.0%5.5%
労働生産性667千円/人1,000千円/人
EBITDA有利子負債倍率1.8倍1.1倍
営業運転資本回転期間1.8か月1.5か月
自己資本比率43.3%45.5%

EBITDA有利子負債倍率とは?

簡単にいえば、借入負担が、本業のキャッシュ創出力に対してどの程度あるかを見る指標です。
EBITDAは、ざっくり、「営業利益+減価償却費」と考えると分かりやすいでしょう。

B社の現状では、
営業利益800万円 + 減価償却費600万円 = EBITDA 1,400万円
となります。

4.「労働生産性」は2種類あるので注意

この事例で特に注意したいのが、労働生産性という同じ名称の指標が2種類登場することです。


ローカルベンチマークでは、「営業利益÷従業員数」で計算します。
B社では、「800万円÷12名=約66.7万円/人」です。

一方、経営力向上計画の目標指標として使用する労働生産性は、
「(営業利益+人件費+減価償却費)÷労働投入量」で計算します。


このため、同じ会社・同じ年度でも数値は一致しません。

5.B社では労働者数方式で労働生産性を計算

B社では、現状と計画終了時で就業時間の前提を変更しないため、労働投入量として労働者数12名を使用しています。

現状は、
営業利益 800万円+人件費 5,400万円+減価償却費 600万円=6,800万円
6,800万円÷12名=約566.7万円/人

です。

3年後は、

営業利益 1,200万円+人件費 5,800万円+減価償却費 800万円=7,800万円
7,800万円÷12名=650万円/人

となります。
したがって、労働生産性の伸び率は約14.7%です。

年間就業時間を使う場合もある

労働投入量については、労働者数だけでなく、
「労働者数×1人当たり年間就業時間」を使う場合もあります。

例えば、
現状
6,800万円÷(12人×1,900時間)=約2,982円/時間

計画後
7,800万円÷(12人×1,750時間)=約3,714円/時間

という形です。
人数が変わらなくても、働く時間を短縮しながら付加価値を増やす計画では、年間就業時間を使うことで改善効果を反映できます。
B社は就業時間の前提を変えないため、よりシンプルな労働者数方式としています。

6.経営力向上策は「設備・標準化・人材育成」の3本柱

B社では、経営力向上の内容を3つの実施事項に分けています。

実施事項ア 設備投資

高性能マシニングセンタを導入します。

目的は単なる設備更新ではなく、

  • 加工時間短縮
  • 段取り時間短縮
  • 設備停止削減
  • 不良削減
  • 外注加工の一部内製化
  • 短納期対応力向上

です。

実施事項イ 加工ノウハウの標準化

熟練者2名が持つ、

  • 加工条件
  • 使用工具
  • 治具取付方法
  • 加工順序
  • 寸法確認方法
  • 異常時の確認事項

を整理します。
主要20品目について、加工条件表と段取りチェックシートを作成します。

実施事項ウ 若手社員の育成

作成した加工条件表やチェックシートを使い、若手社員2名へ計画的なOJTを行います。
計画2年目までに、「主要加工を単独で担当できる社員を2名→4名」へ増やす設定です。

7.社内KPIまで決めておくと計画が具体的になる

B社では、申請上の労働生産性だけでなく、社内管理用のKPIも設定しています。

指標現状導入後目標
代表製品の加工時間60分45分
平均段取り時間60分40分
再加工・不良率3.0%1.5%
年間設備停止時間80時間20時間
主要加工を単独で担当できる社員2名4名

これらは認定のための正式な目標指標そのものではありません。
しかし、「設備を導入した結果、現場がどう変わるのか」を確認するうえでは重要です。

8.必要資金は実施事項と対応させる

B社の必要資金は次のとおりです。

使途調達方法金額
マシニングセンタ自己資金500万円
マシニングセンタ金融機関借入2,000万円
外部操作研修等自己資金50万円
合計2,550万円

設備2,500万円について、「自己資金500万円+借入2,000万円」としています。
同一の設備でも、資金調達方法が異なる場合は分けて整理します。

9.経営力向上設備等はA類型を想定

B社では、「立形マシニングセンタ1台・2,500万円」を取得する想定です。
利用する支援措置は、中小企業経営強化税制A類型としています。
ただし、「高性能な設備だからA類型になる」という意味ではありません。

本事例では、工業会等証明書を取得できる設備であることを前提としています。
実際の申請では、対象設備、取得価額、証明書、取得時期などを個別に確認する必要があります。

10.設備取得のタイミングには注意

設備投資を伴う場合、設備の取得時期は重要です。
基本的には、「設備を取得する前に、計画と税制手続きを確認する」と考えておく方が安全です。

計画開始時期については、申請時点から一定期間遡って設定できる取扱いもありますが、遡及申請を前提に設備を購入するのではなく、事前に確認しておく方が確実です。
また、ここでいう設備の「取得」は、発注日や支払日ではなく、原則として設備の引渡しを受けた時点を基準に考えます。

11.この記載例で見てほしいポイント

今回のB社事例で特に見てほしいのは、設備のスペックそのものではありません。

重要なのは、【現状認識→経営課題→実施事項→KPI→財務目標】がつながっていることです。

B社では、

老朽設備と熟練者依存
  ↓
設備更新・標準化・育成
  ↓
加工時間、不良、設備停止の削減
  ↓
受注余力拡大
  ↓
売上・利益・労働生産性向上

という一本の流れで計画を作っています。
経営力向上計画では、長い文章を書くことよりも、課題と取組と数値を矛盾なくつなげることが重要です。

12.作成事例PDFを公開しています

今回のB社事例について、電子申請の入力項目を意識して整理したPDFを公開しています。

PDFでは、

  • 名称等
  • 事業分野・事業分野別指針
  • 実施時期
  • 現状認識
  • ローカルベンチマーク
  • 経営力向上の目標・指標
  • 経営力向上の内容
  • 社内KPI
  • 必要資金・調達方法
  • 経営力向上設備等

まで、一連の内容を確認できます。

本資料は架空事例です。
実際の申請では、申請時点の最新の制度、事業分野別指針、税制要件、設備要件等をご確認ください。

まとめ

経営力向上計画は、申請書の文章だけを見ると比較的簡単に見えます。
しかし実際には、

どの事業分野か
  ↓
何が経営課題か
  ↓
何を改善するか
  ↓
どの指標で成果を示すか
  ↓
設備・資金・税制をどう組み合わせるか

を事前に整理する必要があります。
B社の事例では、新事業を始めるのではなく、設備投資・技能標準化・人材育成によって既存事業の生産性を高める形にしています。実際にPDFでも、新事業活動には該当しない整理としています。
経営力向上計画を作成するときは、まず申請書を書き始めるのではなく、現状・課題・取組・数値のつながりを整理してから入力すると作りやすくなります。