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経営革新計画の承認で融資は通るのか|実務から見えるリアル

➀ 「経営革新計画の承認を取れば、融資が受けやすくなる」この説明は正しいですが、正確ではありません。
➁ 承認は融資の「パスポート」ではなく、融資申込みの「申請資格」です。パスポートを持っていれば入国できるわけではなく、入国審査を通過しなければならないのと同じです。
➂ この記事では、経営革新計画の承認が融資にどの程度影響するのか、審査実務の経験をもとに正直にお伝えします。

第1章 まず押さえておくべき大前提

中小企業庁・各都道府県のいずれも、公式に以下を明示しています。

計画の承認は支援措置を保証するものではありません。利用を希望する支援策の実施機関の審査が必要となります

出典:中小企業庁 経営革新計画ガイドブック

これは建前ではなく、実態です。承認を受けた後に融資審査で否決されるケースは実際に存在します。

第2章 承認が融資に与える影響

2-1. プラスに働く要素

経営革新計画の承認は、融資審査において以下のプラス要素として機能します。

➀日本政策金融公庫への申込資格

「新事業活動促進資金」という特別利率の融資制度への申込みが可能になる。
 公庫は政策実現がミッションのため、承認済み計画への対応は民間金融機関より積極的な傾向がある。

➁信用保証協会の別枠設定

通常の保証枠とは別に追加枠が設定される。 担保・実績が少ない企業でも融資を受けやすくなる可能性がある。

➂金融機関への定性的な信用

「都道府県知事に認められた経営計画がある」という事実は、担当者への説明資料として機能する。
 「経営改善の意欲がある企業」として定性評価に影響する。

2-2. 限界がある部分

一方で、以下の点は正しく認識しておく必要があります。

➀既存事業の財務状況が土台になる

承認を受けていても、既存事業が債務超過・継続的な赤字の状態では 融資審査を通過することは難しい。
承認の効果は「加点」であり、「減点を帳消しにする」ものではない。

➁「実態の見えない計画」には融資しない

 書類の完成度だけを高めた計画書では、融資する金融機関はいない。
 融資担当者は計画の実現可能性を独自に評価する。
 経営革新計画の承認はその判断を左右する一要素に過ぎない。

➂低利融資は新規事業分にしか適用されない

 既存事業の借入を低利に借り換える制度ではない。
 新規事業に直接必要な資金にのみ適用される。

第3章 企業の状況別・現実的な見通し

融資の可能性は、企業の財務状況によって大きく異なります。公的な統計として確認できる数字はありませんが、実務上の感覚として以下のように整理できます。

【状況A】黒字・自己資本あり

承認の効果が最も大きく出る

  • 「念のための別枠確保」や「低利への切り替え」として機能しやすい
  • 融資申込みと並行して早めに計画を取得しておく価値が高い
【状況B】収益トントン・一定の債務あり

計画書の「実現可能性」の説得力次第で結果が変わる

  • ここが専門家の腕の見せどころ
  • 数値目標の根拠・資金計画の精度が審査の分かれ目になる
【状況C】赤字・債務超過あり

非常に厳しい状況

  • 民間金融機関からの融資は困難なケースが多い
  • ただし公庫・保証協会が「V字回復の蓋然性」を認めた場合に動く可能性はゼロではない
  • 計画書の質よりも既存事業の立て直しが先決

第4章 統計の「落とし穴」

承認企業の融資実行率について、断片的な数字が語られることがあります。しかしその数字には重要な背景があります。

「そもそも融資が通りそうな企業しか、計画作成を勧められていない」という現実です。
この「スクリーニング効果」を考慮すると、承認=融資成功という単純な因果関係は成立しません。
金融機関の担当者は、融資の見込みが薄い企業に対して経営革新計画の取得を積極的に勧めません。つまり、承認を受けた企業の母集団には「もともと融資が通りやすい企業」が多く含まれています。
この「スクリーニング効果」を考慮すると、承認=融資成功という単純な因果関係は成立しません。

第5章 では、何のために承認を取るのか

融資だけが目的でないとすれば、承認の真の価値はどこにあるのか。

➀補助金審査での確実な加点

ものづくり補助金等での加点は「承認があれば確実」に適用される。これは融資と異なり、別途審査がない。補助金の採択率向上という目的では最も確実な効果がある。

➁経営計画を作る「強制力」

計画書を作るプロセス自体に価値がある。
新規事業の新規性・実現可能性・数値目標を整理する作業は、経営判断の精度を上げる。

➂対外的な信用力

取引先・金融機関への説明資料として「都道府県知事に認められた計画がある」という事実は一定の信用力を持つ。

➃融資申込みの「土台」を作る

融資が目的の場合でも、承認なしで申込むより承認ありで申込む方が有利。
「パスポート」ではないが、「申込みを有利にする書類」ではある。

まとめ

経営革新計画の承認は「融資のパスポート」ではないが、「融資申込みを有利にする書類」にはなる

正確な理解
➀ 承認後に別途融資審査がある
➁ 既存事業の財務状況が土台になる
➂ 実態のある計画でなければ意味がない
➃ 補助金加点には最も確実に効く

活用の原則
➀ 融資だけを目的にしない
➁ 計画を作るプロセス自体に価値がある
➂ 財務状況が厳しい場合はまず既存事業の立て直しを優先する

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